好きだから137

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「手塚からちょっと顔が知られてるやつが看病してるから往診してくれって言われて、芸能人でもいるのかと思ったけど、まさかタイガースの沢村選手にお目にかかれるとは思わなかったよ。自主トレとかなんか?」
「……はあ」
「いや、もちろん口外したりはしないから。つい、嬉しくて。俺も手塚も野球ファンで、海外にいる時はネットとかでプロ野球情報見て二人で盛り上がってた」
 人のよさそうな笑顔を向けて内村医師は乗ってきたハッチバックのドアを開けた。
「まあ、もし、また症状が気になったら電話して。おっと、もう行かないと。何せ一人でやってるからね」
「ありがとうございました」
 雪道を走り去る内村医師の車を見送ってから沢村は屋内に戻り、寝室を覗くと佐々木は察知したかのように目を開いた。
「俺、何か食うけど、スープとかでも食べられない?」
 沢村は隣のベッドに座って尋ねた。
「…いや……」
 沢村はまた眼を閉じた佐々木を見て寝室を出ようとした。
「……ちょお、待て……」
 急に佐々木に呼び止められて沢村は振り返る。
「……何でお前が、ここにいてるんや?」
「夕べ、手塚センセとバトンタッチしたんだ」
「……んん……」
 頭痛がするからか、明快なくせにわけのわからない沢村の答えに佐々木は眉を顰める。
「あんた、俺のことわざと拒否ったりするから、寝込むことになるんだろ」
「………頭が痛い……」
 反論する言葉が見つからない。
 何で? いつの間に、稔さんと沢村が手を組んでるんや?
 考えれば考えるほど、佐々木は余計に頭が痛くなる気がする。
「薬、飲むか?」
「……飲む……」
「持ってくる」
 沢村はキッチンに行って、水を入れたグラスとバナナを一本持ってきた。
「バナナ、どれだけでも食べた方がいい。薬、胃を荒らすから」
 佐々木は起き上がって沢村が皮をむいてくれたバナナを受け取ると、むきになって一本食べきった。
 バナナの皮の代わりにグラスを持たされて顆粒の風邪薬を渡されると、水で飲み下した。
「とにかく寝てろよ」
 沢村はグラスを取ってテーブルに置くと、佐々木をまた寝かしつけたが、頭痛のせいだけでなく、何か不機嫌そうだ。
「ちぇ、何だよ、さっきは可愛いこと言ってたくせに」
 しかも涙とか。
 改めて思い出すと、沢村まで熱でも上がりそうになる。
「夢だろうが、潜在意識ではああ思ってるってことだろ」
 ぐっと両方の拳を握りしめて、「これで佐々木さんが何言ったって、切り札になる!」とひとり喚く。
 ようやく沸騰した頭を宥めるべく、コーヒーをいれてリビングでパンを齧っていると、沢村の携帯が鳴った。
「あんたか」
 稔の声に、つい、突っかかり気味な返事を返す。
 佐々木のことがあるので、番号を聞かれてとりあえず教えたのだ。
「内村、来てったか? インフルは? 熱は?」
「陰性。風邪だろうって。三十八度ちょい」
「そうか、ま、そりゃ、しばらく寝かせとけ。あいつ、日曜にお茶の稽古とか言ってたが、まず無理だな」
「それはダメだろ」
「お前、あいつの熱が下がるまでついてるか? それとも……」
「ついてるに決まってるだろ! 熱が下がったら俺が連れて帰る」
「フン、んじゃま、しっかりやれ」
 電話が切れると、沢村はまたぞろ稔に対してムカついてくる。

 


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