好きだから136

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 父親は愚弟賢兄などとよく言ったものだが、沢村が兄より成績で負けたことなどは一度もない。
 あれだけ野球で騒がれながらも大学の卒論ですら手を抜くことはなく、それはもう沢村には意地でもあった。
 そんな出来過ぎた弟に対して兄は敵対心をあらわにしていたが、結局父親にすり寄ることしかできなかったのかも知れない。
 つまらないことまで思い出した自分に沢村は胸糞悪くなって、佐々木に毛布を掛け直した。
 そのうちうつらうつらしていた沢村は座ったまま横になって眠ってしまった。
 はたと、身じろぎする空気に気づいて目を覚ましたが、眠っていた佐々木がいない。
 驚いて立ち上がったところへ、佐々木が戻ってきてまたベッドへ潜り込んだ。
「大丈夫か? 佐々木さん」
「ああ」
 そう言いながらまた一つ咳をする。
「何か飲む?」
「ああ」
 冷蔵庫から経口補水液を取ってくると、グラスに注いで、「飲める?」と聞いた。
 佐々木は身体を少し起こしてグラスを受け取り、ごくごくと飲み干した。
「まだいるか?」
 グラスを取り上げて沢村は尋ねた。
「もうええ……」
 一つ二つ咳をしながら身体中がだる重い佐々木はまた毛布に潜り込む。
 何か引っかかりを感じたが喉が痛むし頭も重くて働かない。
 体力的には自信があったとまでは言わないが、仕事は許容量を超えていたから気合だけでやっていたようなものだ。
 そのつけが見事に回ってきたようだ。
 今はただ眠りたくて、佐々木は目を閉じた。
 
  
 

 
 
 少しうとうとしたが、寒くなった気がして沢村はリビングのストーブに薪を入れた。
 次第に外も明るみはじめ、キッチンの窓から細かい雪が静かに降っているのが見える。
 七時半を過ぎようとしていた。
 佐々木は少し咳が出て、沢村が部屋に戻ってきた気配で目を覚ました。
「何か食べれそう?」
 沢村も佐々木が目を覚ましたのに気づいた。
「今はええ」
「水、持ってくる」
 沢村から経口補水液の入ったグラスを受け取って佐々木は飲み干した。
「熱、……三十八度二分って、まだ熱高いよな」
 沢村は赤外線体温計の数字を覗き込んだ。
「とりあえず病院に電話して往診きてもらう」
 佐々木は立ち上がろうとした沢村の腕を掴んだ。
「風邪やから、寝てれば治るし、往診とかいらん」
「いや、インフルも心配だからきてもらえばいい」
 佐々木はまだ頭もぼんやりしていたし、少し咳き込んだ。
「ほら、いいから、寝てろよ」
 佐々木を寝かしつけると、沢村はグラスをキッチンに持っていき、携帯で内村医院を呼び出した。
「ありがとうございます、朝早くに」
 内村医師は早速八時頃一人でやってきて、沢村を見ると、おっという顔をしたが、何も言わずに案内された寝室に入った。
「ああ、インフルは大丈夫だな。仕事のし過ぎでダウンしたんだって? 熱はあるが、喉がちょっと腫れてるからな。とにかく寝て、栄養を取って、ゆっくり休むことだ」
 佐々木の喉を見てから、インフルエンザの検査をして熱を測り、内村医師は手塚と同様のことを言った。
「え、あの、点滴とか、薬とか、いいんですか」
 診察を終えるとそそくさと玄関に向かう内村医師に、沢村は尋ねた。
「風邪に点滴とか無暗にやってもあんまりねえ。もし、鼻水とか、頭痛とか、そういうのには、テーブルに置いてある薬を飲んでみなさい」
 屈強そうな手塚とは違って、ごく普通の体格の、インテリっぽい眼鏡の医師は穏やかに笑い、続けて言った。

 


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