好きだから34

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 淑子の言うように、仮にもし直子と佐々木が結婚するようなことになれば、もし二人に子供ができるようなことがあれば、この裏寂しい古びた家も少しは賑わいを取り戻すことがあるのだろうか。
 そういえば稔も久乃先生が心配で、家に戻ってきたのだろうか。
 久乃先生も淑子より二つ三つ上だったはずだ。
 稔があとを継ぐとか聞いたこともなかったが、確か姉の皐月は啓應大の医学部に入った才媛で、あの人があとを継ぐとばかり思っていたのだが。
 沢村は家族とは縁を切っているなどと言っていたが、最近話すようになったという母親は、沢村の幸せな結婚を望んでいるのではないだろうか。
 誰しも思い描いた道を行くとは限らないのだろう。
 混沌とした思いは次から次へと現れて佐々木の頭を一杯にしていく。
 こういう時は、飲まないでは寝られない。
 いつだったか藤堂にもらった土産の酒を箱から出して開けた。
 ロール・ド・マーテルと書かれていて、藤堂がきれいなボトルだから佐々木さんによく似合うとか言って渡してくれた。
 この際値段とかは考えないでおこう。
「まあまあじゃないか」
 一口飲んで佐々木は呟いた。
 今夜など、電話もできないほど忙しいというわけではない。
 つい、携帯を見てしまう。
 二杯目のグラスを空ける頃、また佐々木は携帯を弄んでいた。
 午前一時を回っていた。
「あいつ、このくらいの時間でもかけてきよったくせに」
 ほんなら、俺からかけてみればええんやないか。
 佐々木は沢村の名前をタップしようとして、指が止まった。
 携帯をベッドに放り投げると、コニャックをまたグラスに注いだ。
「電話を遠慮するやと? あの勝手なやつが」
 自分からそんな風に遠慮をするとか、今までなかったことだ。
 それがきっと佐々木の中で引っかかっていたのだ。
 アスカのことはマスコミのでっち上げだったとしても、どこかの令嬢との話というのは、事実なのだ。
 プロ野球の選手などは、割と早くに結婚するのが普通らしい。
 家庭を持ってなんぼ、特に結果を出すのが必須な選手らには、それが当たり前らしい。
 これまで野球のことなどほとんど知らなかった佐々木も、沢村のことをネットなどで知るうち、自然と詳しくなった。
「ほんならやっぱ、俺みたいのとあやふやな関係でいてる方があかんやんか」
 口当たりの良さについ、またグラスを空にしてしまう。
「うちのおかんなんか、お前からしたらもう婆あやろ。俺はおそうにできた子ぉやしな」
 車の中で直子のことを尋ねた淑子の顔に、何かしら寂しげな影を見た気がしたのも否定はできないだろう。
「ていうか、俺なんか、もう、年くうてるんやからな……」
 若いやつの熱になんか、もう、ついていかれへんね……。
 程よい甘さの酒はとりあえず睡魔を呼び寄せたものの、様々な思いが佐々木の心の中をさらにかき回した。
 

 


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