好きだから40

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「稔さん?」
 次にはドアに押し付けられて、温かいものが唇を塞いでいるのに気づくまで、酔った頭の経路がのろかった。
 やっとのことで両腕で稔を押しのける。
「……あ、かん…で、こんな……キスみたいなこと……」
「みたいじゃない、キスだろ。お前、やっぱ誰かいるわけか?」
 言われても佐々木の頭がなかなか機能しない。
「無防備に誘いやがって、って思うだろうが、今夜のお前。やけに色っぺぇし」
 その艶っぽい目を佐々木は稔に向ける。
「だーから! くそっ!」
 稔は舌打ちした。
「俺はお前がずっと可愛かったんだ。男だとかもう百年も昔に飛び越えとるわ」
 佐々木はふっと笑う。
「うん、稔さん、俺のこと好きやったよね。知っとったけど、何も言わんかったし」
「お前な、理性を総動員して抑え込んでた俺に、それを言うか?」
「せやね、そのうち、………ひょっとしたら、かもわかれへんけど……今はあかんわ。おやすみなさい!」
 佐々木は酔った頭を下げた。
「しゃあねぇな、貸せ」
 稔は佐々木の持っている鍵を取り上げると、ドアを開け、佐々木を押し込んだ。
「俺の前以外で、その無防備な面、さらすんじゃねぇぞ! しっかり鍵かけとけよ!」
 捨て台詞のように言い置いて、稔はドアを閉めた。
 ふうともう一つ息をつくと、佐々木は廊下に座り込んだ。
「相変わらず、俺の親衛隊なんやから」
 嫌いではなかった。
 むしろ温かく包んでくれるような愛に佐々木が甘えていたのは高校の頃までだったか。
 稔が大学に進学し、やがて佐々木の周りも変わっていき、大学では春日という先輩に可愛がられた。
 春日はちょうど佐々木が友香と付き合い始めた後で知り合ったし、春日も今の妻である早紀子と付き合っていたから、聞いただけなら激しい愛も言葉上だけで、ただし、今の会社を興したのは佐々木の為だということはあながち嘘とは言えないのだ。
 特に友香と別れてからが多かったが、春日が今日のような佐々木を送ってくれたのも二度や三度ではない。
 そんな春日にも、まだ沢村のことは話してはいない。
 それは自分のことより、やはり沢村の立ち位置のことがあったからだ。
 その沢村は今頃どうしているのだろう。
 電話で話したのももう一週間以上も前になる。
 パワスポの八木沼との対談は、持ち帰った仕事をやりながら画面をところどころ見ていた。
 あんな風にシックなスーツでも着て黙っていれば、落ち着いた大人に見えないこともないが、良太によれば口を開くと滅多なことを言ってしまいそうなので、なるべく喋らないようにしていたら、クールだなんだと言われるようになったらしい、全く詐欺だと思う。
 初めて会った時は、てっきり自分より大人だと思ったのに。
「くっそ、電話したろか。お前が会いに来いへんから男にキスされよった言うて」
 口走ることが支離滅裂で、まだかなり酔っているらしい。
 携帯を見ると既に午前一時を過ぎていた。
 画面の沢村の文字をしばらく見つめていたが、佐々木はふっと笑う。
「んなこと、言うたかてや!」
 ふっと眠りに落ちそうになって、「あかん、風邪なんか引いとる場合やないんや」と佐々木はかろうじて立ち上がると、寝室まで何とかたどり着くとベッドに突っ伏した。

 


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