好きだから41

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    ACT 8
 
  
 

 寒気団が南下して西高東低の冬型の気圧配置が強まり、強い北西の季節風が関東全域を駆け抜けたために体感温度をひたすら下げていた。
 午後十時を過ぎた頃、首都高を汐留JCTに向かう一台のベンツがあった。
 最高級サルーンなどと日本では称されるこのSクラスのセダンを運転しているのは、大柄の、着ているスーツが物語るようにどこかしら育ちの良さが伺える男だ。
 ただし、彼がこの車を選んでいるのは、ブランドというより体格がいい自分がゆったり乗れて、頑丈でかつ最先端のテクノロジーをフルに導入しているという理由からだ。
 海岸通りに入った頃、ハンズフリーにしている携帯が鳴った。
「沢村? 俺、今、電話大丈夫か?」
 相手は声ですぐにわかった。
「ああ、今、帰りだ。どうした、良太」
「何、またトークショーかなんか?」
「いや、バットのことで岐阜まで行った帰りだ。もうすぐ着く」
「そうか、だったら着いたら詳しく電話するけど、ちょっと例のオッサン、動きがあったんで」
「じゃ、部屋に着いたらこっちからかける」
「あ、いや、悪いが、駐車場に着いたら車からかけてくれないか?」
 良太の妙な言い回しに、沢村は訝しく思いつつも、わかったと言って電話を切った。
 動きがあったとは、膠着状態からやっと抜け出せるかもしれないということでもあり、それが何を意味するのかは別として、沢村は少しほっとしていた。
 ここのところ、どうしようもない八方塞がり状態で、何もできないもどかしさに業を煮やしていた。
 佐々木に忙しいとは言われたものの、何度電話をしようと思ったことか。
 だが、佐々木と話をしていても、佐々木に隠していることが後ろめたくて、何かぎこちなくなってしまうのだ。
 良太が社長秘書兼プロデューサーとして籍を置く青山プロダクションの社長、工藤も所属女優の中川アスカまでをつけまわしている興信所に対して、何でもいいから訴訟を起こせと弁護士の小田に難癖をつけているらしく、堪忍袋の緒が切れる寸前のようだ。
 この件に関わってから青山プロダクションのオフィスには出向いたものの、運よくまだ工藤とは顔を合わせていない。
 合わせたらあの男のことだ、事の発端である沢村に対して、雷の一つや二つ落としてくれそうだ。
「今、駐車場だ」
 沢村は、エンジンを切ってから良太に電話をかけた。
「うん、こないだ、言っただろ、遠野さんが、お前の部屋とアスカさんの部屋にカメラ仕込んだって」
「ああ。なるべくカメラの前では着替えないようにしてるぜ?」
 沢村は茶化して言った。
「先手を打って正解だったらしい。あちらさん、いよいよスレスレのところから踏み出しやがったみたいだぜ? 盗聴器と盗撮器、仕掛けたらしい。昨日鍵借りただろ、遠野さんがうちの知り合いでそういうの詳しい人と中を調べて確認した。家宅侵入罪適用で、大手を振って告訴できる」
 良太の言葉に、沢村はまさしくはらわたが煮えくり返るような怒りを覚えた。
「クッソ! だったら、早いとこ告訴してくれって小田先生に言ってくれよ」
 沢村は激昂した。
「まあ待て、アスカさんとも話したんだが、せっかくだからちょっとした小芝居をして、名誉棄損もつけてやれって」
「それはかまわないが、アスカさんみたいに演技なんかできねぇぜ?」

 


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