「アスカさんの話に適当に乗ってやればいいんだよ。それに、どうせまた関西だろ? 部屋を空ける時、遠野さんが盗聴器やらを外しに行くってさ」
良太は説明した。
「わかった。しかしカメラなんてしかけて、大丈夫なのか? アスカさん」
沢村はそれでもアスカに迷惑をかけていることが心苦しかった。
「仕込まれたカメラの場所はわかってるからな。工藤にも一応話したら、即刻告訴だとか喚いてた」
「当然だな。工藤、今、日本にいるのか?」
「いや、一昨日からドイツ。フジタのCM、また志村さんでやることになって。小田先生に帰るまでに怒鳴り込めって言っておけって怒鳴ってた」
電話を切ってからも、なかなか沢村の中の怒りは収まらなかった。
早くこんな状態から抜け出して、とにかく、佐々木の顔が見たい、それだけが沢村の想いだった。
良太の話の通り、シャワーを浴びてビールを一缶飲み干した十一時頃、アスカから電話が入った。
「あ、智弘? あたし! 明日やっと時間取れそうだと思ったら、もう、うちの鬼の工藤がさ、急に雑誌の取材なんか入れちゃって、そっち行けそうにないんだ。」
さっきの良太に続いて工藤つながりで、沢村は少し笑ってしまった。
「そうか、俺もトークショーとかで、しばらく関西だからな。どうせなら、向こうにでもくるか? 奈良の方、結構いい感じだぜ」
アスカに合わせて軽く乗ってみた。
本当はそのまま佐々木に言いたい言葉だ。
「それ、すんごくよさそう! 行けるかも。ブライトンのCM撮り、六本木のYスタなんだけどさ、それまで何日かあったと思うし、秋山っちにスケジュール聞いてみるね」
アスカのセリフはごく自然で、どこにも芝居の要素が見当たらない。
「わかった」
「また、連絡するね!」
切る前に、はっきりとキスの音が聞こえた。
さすがというより、ほとんど巣のままのアスカには頭が下がる。
そういえば、ブライトンのCMって、確か、佐々木さんが撮り直しくらったってやつだったよな。
佐々木はどこの仕事、とかは話してくれないが、良太からその情報は聞いていた。
確か、アスカさんと水波がやることになってたやつを、俳優の誰だかと撮り直すとか。
あーあ、やっぱ、佐々木さんの苦労を考えると、下手な話はできないよな。
「声くらい、聴きたいよな、やっぱ」
つい、盗聴されているのも忘れて、沢村は本音を漏らした。
水波清太郎が主演の予定だったドラマはスポンサー関連の記念番組のため、水波のカットだけとはいえ、ほぼ三分の二を撮り直すことになった。
ここで思いがけず座長の枠が転がり込んだのは、大澤流、映画監督と女優の両親を持ついわゆる二世俳優である。
中川アスカも大澤ならドラマでの共演は今までもあったのだが、どちらもかなり我儘一杯、と言うところがミソだろうか。
それでも水波ほどアクが強くはなく、どうせ二世だからなどとこき下ろされながらもここ数年それなりに力をつけてきていた。
CMも同じく水波とアスカだったところを大澤とアスカで、こちらはイチから創り直すことになった。
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