ACT 9
水波清太郎の覚醒剤事件でしばらくその陰に隠れていた事件が、ここにきて新局面を迎えたのは一昨日のことだ。
民自党の重鎮、現総理の懐刀とされる衆議院議員齋藤保志元国交大臣に東幹産業傘下の東幹建設から公共工事に絡んだ賄賂が流れたとされる事件で、齋藤保志議員と東幹建設の取締役を始めとする関係者数名が東京地検特捜部に逮捕され、テレビの報道番組のみならずワイドショーはこの事件で持ち切りだった。
そんな時、週刊『東京芸能』が妙な記事を載せているのを見つけたと、ある朝、青山プロダクション嘱託カメラマンの井上がオフィスに寄って良太に雑誌をつきつけた。
「『東京芸能』? メジャーって程じゃない雑誌だよな」
良太は井上が開いた記事に目を落とす。
「何だよ、これ!?」
思わずカッとして誰かさんのように雑誌を叩きつけたくなった。
『ありゃ、やらせじゃねーの? 中川アスカってそろそろ若手ってくくりから外されてるしさ、ここんとこパッとした噂もないから、人気選手と派手にトップ飾ってもらえればってな、事務所の魂胆でしょ』
アスカと沢村の顔写真がデカデカと見開きに載り、関係者の話として暗に青山プロダクションとアスカをこき下ろしたい系の文言がダラダラと続いている。
確かにあれはでっちあげといえばその通りなのだが、その事実を知っている人間は顔見知りの何人かだけのはずだ。
沢村とアスカのスクープ関連でこういったこき下ろし記事は初めてで、良太もネットで探してみたところ、無論根拠のない誹謗中傷ならいくらでもありそうだが、ネットでも元大臣の贈収賄事件に目が向いていることもあってか、他に似たような内容の記事は主な雑誌の記事としては見当たらない。
青山プロダクションや工藤に因縁をつけたい連中はわんさかいるに違いないが、今回の記事が妙だと思ったのは、沢村には●●商事の令嬢との縁談が進んでいる云々の文言と以前の沢村とそのどこぞの令嬢のスクープにはなかった、実際のパーティ内でのショットがあったからだ。
沢村以外の人間には目隠しが施されているが、写真には数名の男女が写り込み、パーティが開催された会場で、しかもかなり近いところでなければ撮れないものだ。
「政治汚職はもうお腹一杯だし、何か面白いことないかなと思ってた矢先、見かけて気になってね」
そう言って電話をしてきたのは藤堂だった。
「俺も、何か作為を感じて、ちょっと調べてみようかと。工藤が戻って怒鳴り散らす前に片をつけたいです」
「元大臣のお陰でそう話題にもなっていないようだが、こっちも蛇の道は蛇ってヤツで、ちょっと手を回して探ってみるよ」
記事のことは気づいてなければわざわざ知らせることもないだろうと、沢村にはあえて知らせなかったものの、良太は雑誌記者や制作スタッフ、それにスタイリストなど、あちこちで出会った知り合いに『東京芸能』や記者などについて尋ねてみたが、あまり大した情報は得られなかった。
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