好きだから47

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 沢村に関係しているかも知れないこともあって、小田にも連絡を入れると、早速調査すると言っていた。
「芸能界とかって、そんなウソで人の悪口の記事を書かせたりするなんて、ほんと嫌な人がいるのねぇ」
 入れたばかりのコーヒーを良太のデスクに置いて、鈴木さんが溜息をついた。
「はあ、そうですよねぇ」
 えーっと、と良太はまず一口コーヒーを飲んでから、自分のデスクに戻る鈴木さんを見た。
 俺よりも長いよな、このオフィスに入って。
 芸能界ど真ん中って感じの社長の下で、ゲーノー人が入れ代わり立ち代わりしているこのオフィスにいて、鈴木さんってすごいよな、と何がすごいのかわからないまま、良太は心の中で感心した。
 その電話がかかってきたのは、翌日の夕方、良太がちょうど打ち合わせから戻ってきたところで、鈴木さんがパソコンの電源を落として帰る準備をしようと立ち上がった時だった。
「青山プロダクションでございます。はい、真岡様? 工藤はただいま席を外しておりますが、どのようなご用件でしょうか?」
 コートを置いて、デスクについたばかりの良太は、少し怪訝そうな表情で鈴木さんを見た。
「はい、至急とおっしゃられても……はい」
「誰? 代わろうか?」
 良太は鈴木さんに近づいて言った。
「あ、少々お待ちくださいませ」
 鈴木さんは電話を保留にした。
「真岡様という方なんだけど、至急社長と話したいっておっしゃるの。何だかあまりいい感じがしないわ」
 真岡という名前をどこかで聞いた気がして、良太は受話器を取った。
「お電話代わりました。私、社長秘書をしております広瀬と申しますが、生憎工藤は出張に出ておりまして、今週末までは戻らないものですから、至急のご用件でございますか? よろしければ私が承りますが」
 良太は電話口でそう話しながら、脳みそを総動員して真岡が何者なのかに辿り着き、電話機の録音ボタンを押した。
 
 
   
 
 蛇の道から情報を得た藤堂が青山プロダクションのオフィスを訪れたのは翌日のことだった。
「早速良太ちゃんに知らせたくてね」
 左手にはプラグインのオフィス近くにある有名パティセリーのロールケーキが入った袋。
「まあ、ここのロールケーキ、最近評判になってますわね!」
 鈴木さんはいそいそとキッチンに持って行って、やがて香しい紅茶と共にケーキ皿にはカットしたロールケーキを並べてリビングに舞い戻った。
「おもたせで失礼します」
 藤堂と自分のデスクからやってきた良太の前に紅茶とケーキ皿を置き、鈴木さんは自分の分を持ってデスクに戻った。
「あれから『東京芸能』の編集部にいるバイトの女の子にたまたま出くわしてね」
「たまたま? 出くわした?」
 良太は胡散臭そうに聞き返す。
「まあまあ、それであの記事書いたって記者のことさり気に聞いてみたんだよ」
「たまたま出くわした女の子はなんて?」
「あの記事書いた記者ってのが西村って、アラフォーのバツイチ男で、頼まれて提灯もち記事とか、たまに怪しいネタとか拾ってろくに裏もとらずに書くとか、どうも編集部でもあまりよく思われていないらしい。って、そのたまたま出くわした子がね」
 藤堂はお茶をゆっくりと飲む。
「じゃ、あの記事、やっぱ頼まれて書いたってことですか」
 良太は忙しなく尋ねる。

 


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