好きだから66

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「どういったものをお探しでしょう?」
「えっと、とにかく、ダサくねーようなコーディネートで上から下まで」
 稔は携帯の画像を見せて言った。
 佐々木は隣で笑い、スタッフがお勧めのコーデを何セットか持ってくるのを見ていた。
「えっと、おい、どれがいいんだ?」
 スタッフにあれこれ説明を受けていた稔は結局決められずに佐々木に頼った。
「茶でも飲むか」
 上機嫌でショップの袋を手にした稔は、ビルの中に入っているカフェにたったか入っていく。
「今度は健斗にだせーとか言わせねぇ。お前のお陰」
 コーヒーを置いたテーブルに両腕をついて、稔は深々と頭を下げた。
「俺なんか、二択でこっち、言うただけやん。大体俺のチョイスなんか怪しいで? 健斗が喜ぶかどうかやなんて」
 頬杖をついた佐々木は、胡乱気に稔を見た。
「いやいや、ぜってぇ大丈夫だって! 天下の佐々木周平様のチョイスだぞ」
「何やねそれ。それにしても稔さん、ちゃんと父親やってんやね」
「そうか? これが父親、って見本知らねぇし。オフクロに追い出された生物学上の父親は全く俺らなんかにかまやしなかったからな。ああ、オフクロがキレて会わせなかったのかも知れねぇが」
「オヤジさんの消息は?」
「さあ、昔、風の便りにどこぞで新しい家庭を持ったらしいってのは聞いた」
「環希さんに復縁持ちかけてみたら?」
 コーヒーを飲もうとした稔の手が止まった。
「脈絡ねぇやつだな。それはないだろ?」
「海外ばっか行ってるいうのが原因なら、少なくとも東京にいるわけやし、稔さんが手塚医院やってようが関係ないんちゃう?」
「今はこの関係がいいんだろ」
「そう? できるもんならしたらええ思うけど」
 佐々木はコーヒーを一口飲んだ。
「お前こそ、どうなんだ? 元嫁とは」
「俺らはそれこそ、もう……。二月にこっちで個展やった時に、久々会うたけど、生き生きしとった。今、スペインや」
 あれから彼女の母親も落ち着いたようで、夏に新しい絵が完成したとメールが届いた。
 個展の時に一緒にいたフェルナンドがインスタグラムを開設してくれたらしく、新作はそこで見ることができた。
 一緒に暮らした時の深い闇に落ち込んだようなようすからは見違えたように、友香ははじけたような笑顔に溢れていた。
 俺にはあんな笑顔を取り戻してやることができんかった。
 つまり、俺って疫病神なんやない?
 友香にも、それに、沢村にとっても。
 知らず佐々木は大きく溜息をつく。
「お前、何、悩んでるんだ?」
「え?」
 唐突に聞かれ、佐々木は一瞬戸惑う。
「こないだの飲みの時も、どっか変だったぞ」
「いや、ここんとこ、疲れとったし。のんびりやっとった俺には仕事超過やったからな」
「そうか? 四時半か、どうだ、予定がなけりゃ、この後、飲み、行くか?」
 稔は疑わし気な目を向けながら言った。
「飲み?」
「今日のデートはそれでゴールだ。付き合ってくれた礼に奢ってやる」
「はは、デートって」
 そうやな。
 佐々木は帰って一人になったら、言い知れぬ寂寥感に襲われることを懸念した。


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