ふと出がけに見た直子の心配そうな顔が目に浮かぶ。
直子にはあらゆる面で世話をかけっぱなしで、これ以上心配をかけたくはないのだが。
横浜新道出口で降りると、そのまま国道一号線を進み、佐々木は江ノ島方面へとアクセルを踏んだ。
江ノ島が見えてきたところで、一三四号線へと車を走らせる。
もう二時間ほども走ったろうか。
何年か前、この辺りに撮影に貸してもろたカフェがあったな。
少し休むかと佐々木は左折してそのカフェへと向かう。
車を降りると目の前に海があった。
小雨が降り続いていたがそのまま少し海へと歩いた。
雨のせいもあってか冬に間近い海は暗く、青というより濃いグレー寄りの色を見せていた。
ぼおっと立っていた佐々木は、小雨でもいつの間にか濡れてきたことに気づき、海から引き返した。
車だったためにニットはタートルでもマフラーだけで来てしまった。
急に寒気がして、カフェへの階段を上がってドアを開けた。
冬の平日で雨だからか、時間も半端な時間なのだろう店内にはほとんど人がいなかった。
佐々木はマフラーを取って窓側のテーブルにつき、温まりたいとミルクティを頼んだ。
ああ、と思い出したことがあった。
大磯に行ったのは沢村と出会った次の日だった。
翌朝湘南バイパスを車で飛ばしていた沢村が、「この先に海が近いカフェがあるんですよ」などと言った。
「佐々木さんの仕事があるから今日は残念だけど、今度ぜひ行きましょう」
あれ、ひょっとしたらこの店のことやったんやろか。
ご飯食べて大磯のホテル行って、海の見えるカフェとか、ベタやけどちょっと贅沢なデートコースやな。
後で沢村が佐々木に言ったように、あの頃、落ち着いた男に見せようと結構背伸びしていたらしい。
以来、お互い忙しくて来たことはなかったが。
まあ、女性が相手なら、こんなカフェなら、いくらでも絵になるやろが。
そうや、あの岡田マリオンとかな、普通、マリオンそでにして俺とかないわ。
佐々木は昨年末のパーティを思い出して嗤う。
けどどうせなら、このカフェとかも沢村とこられたらよかったな。
ほんまに一回くらいゲームもちゃんと行ったらよかった。
どうせなら、もっと、つまらんことでもええから話したかったな。
家族のことかてもっと聞いてやったらよかったんやないか。
縁を切ってるとか言うてたけど、そんなことを言葉にするまでには色々あったんやろ。
ほんまのあいつの気持ちを考えようともせなんだ。
自分から別れたというのに、あとからあとから沢村のちょっとした仕草までが思い出される。
あんなこと、言いとうなかった。
自分が口にしたにもかかわらず、ぶつけたひどい言葉がそのまま、佐々木の心を抉る。
怒れよ、罵ればええ。
俺なんかのことはもう忘れてまえばええんや。
疫病神の俺なんかと関わったばっかりに。
沢村を傷つけたくなんかなかったのだ。
ふう、と大きく溜息する。
ぼんやり頬杖をついて静かに雨の海を見つめていると、少しばかり頭の中の思考回路が動き始めたようにも思った。
やがてドアが開いて何人かが店に入ってくる足音がした。
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