好きだから78

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「ぜひまた試飲していただきたいが、私も飲んでみたが確かにうなずけるものがあります」
「はあ」
 コーヒーにも手をつけず熱弁をふるう今西の勢いにも、佐々木は力のない返事を返す。
「そこで、キャスティングしたのが、八木沼大輔です」
「八木沼?」
 どこかで聞いた名前だ、と佐々木は思った。
「今年大化けしたレッドスターズの新鋭、八木沼です。豪快さ、華やかさといいこの商品にジャストフィットです。しかも大阪出身でお茶目なところが可愛いとオフにちょっと出たバラエティでも女子高生から年配の女性までいや老若男女問わず大うけで、実力も申し分ない。ついでに言えば今回はきっちり身の回りも調査しましたから、水波のようなことになる可能性は限りなく低い。ああ見えて野球に対しては努力家でまじめなようで、若い連中とホイホイ遊び歩くようなこともなく、今月から関西タイガースの沢村と自主トレも始めています」
 いったい何の符号だろう、佐々木は思った。
「佐々木さんが手掛けた沢村選手の広告もきっちり成功して、アディノもホクホクみたいですよね」
 努めて沢村の名前を思考の外に追いやろうとしていたにもかかわらず、何故またここで沢村の名前を聞くことになるのかと。
 しかも仕事での話の中でだ。
 もう金輪際接点などないはずだと思っていたのに。
 無論当人のことではないにせよ、もう勘弁してくれという心境だった。
「お話はよくわかりました。ただ、物理的に今手一杯なので………」
「春日さんから聞きました」
 はっきり断ろうと佐々木が言いかけたのを、今西は遮るように言った。
「プロジェクトは担当と合わなければ成功しないと思っておられる。私とは合わないとおっしゃったそうですね」
 何やね? そないなことまでこの男に話したんか、春日さん。
「その通りです。クリエイターなんか俺程度のもんやったらどこにでもいはるし、俺以上の方でも、今西さんやったら喜んで受けられるン違いますか?」
「スリリングレモンの時は、うちの専属的だったクリエイターが急に辞めて自分探しの旅に出てしまいましてね、私も結構目が肥えているので、クリエイター探しに難航していた矢先に、以前仕事で知り合って意気投合した春日さんに居酒屋で出くわして、あなたのことを熱心に推されたんですよ」
 そこで初めて今西は冷めたコーヒーに口をつけた。
「私もあなたのお名前は聞き及んでいましたから、渡りに船とばかりにお願いしたわけです。しかし」
 今西は目力の強い視線を佐々木に向けた。
「私にも平成世代、いや、昭和なポリシーのようなものがありましてね、あなたと初めてお会いした時に、そのポリシーのファインダーを通してあなたを見てしまったことは確かです。見かけにこだわるやつはクリエイターとしてはダメだとね」
 はあ、と佐々木はうんざり頷いた。
 やったら早いとこ帰ってくれ、俺は仕事の続きがしたいんや。
「そんなことを言われて、このやろう、だったらやってやろうじゃないか、とか思いますか?」
「いやもう、できればぬるま湯で仕事してたいんで、根性論展開されても」
 佐々木は本音を口にした。

 


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