好きだから79

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「なるほどね、しかし受けた仕事はきっちり結果を出しておられる。見かけ云々は、私の卑屈さからなんですよ。センスもない上に地も悪い。だからクリエイターは見かけにこだわらないやつがいいとかね。それに地がよくなければ、センスだけではどうにもならないものもありますからね」
 早口で今西は持論を捲し立てた。
「合わせます。ぬるま湯にでも何にでも。スリリングレモン、CMも好評でクライアントもいたく喜んでいますし、初夏の発売ですから、時間はあります。前回の場合は、出だしが遅かった上に撮り直しで、大変だったかと思いますが」
 あまりな強引さに負けてしまった形で、この仕事を受け、先日最初のミーティングが行われ、できあがったプロジェクトのデザインブリーフに沿って、明日にはイメージキャラクターである八木沼を交えての打ち合わせとなっていた。
「でもあの今西って、好かないやつ」
 クッキーをほおばりながら、直子がぼそりと言った。
「強引で、偏見で、自信家で、俺様タイプ」
「まあ、そういうやつやないと、面倒なプロジェクトも引っ張っていけへんのかもな」
「それだけじゃなくて、見かけにこだわるやつはクリエイターとしてはダメとか、石器時代かっての。ま、目力とデカい声以外、平々凡々なおじさんだからしょうがないけどね」
「石器時代って」
 佐々木は笑う。
「ああ、でも、八木沼のCMってことは、沢村っちとも会えるかもね? 二人で自主トレやってるんだし」
 直子の言葉に、佐々木は一瞬固まった。
「仕事やから、関係あれへんよ」
 口にした言葉から、何かボロが出ないだろうかと、佐々木は直子の視線を外す。
 いくら一緒に自主トレをやっているからといって、仕事は八木沼とで沢村とは全く関係のないことだ。
「せや、今夜稽古やったな。先週休んでもたし、今日は気合入れてやらんと、オカンにまたどやされるわ」
「そうだ、あたしも、同じくだわ。初釜まで一か月きったもんねぇ」
 直子は定時の六時であがり、オフィスで佐々木の夕食分と一緒に出前を取り、カツ丼をそそくさと食べると、佐々木家へと向かった。
「ごちそうさま! お先に失礼しまーす!」
 週一のお茶の稽古の時は、直子は弁当などで食事を済ませてからオフィスを出るようにしている。
「直ちゃんには世話になってるし、そのくらいはいつでもどうぞ」
 稽古は七時からなので、外で食べるとあまり時間が取れないだろうと、佐々木が勧めたのである。
 お茶の稽古にはできれば着物で行きたいからと、直子は最近、土曜日には着付け教室にも通い始めた。
 幼い頃から親に習い事をやらされていたというが、ピアノはかなり上級者だし、ヘビメタ命の直子だが、案外日本文化的なものも好きなようで、とにかくやるとなれば努力家だ。
 ただ、大学は服飾デザインだったのだが、デザインは好きでも作る方は不得手だったらしく、ジャストエージェンシーに入ったのもデザイン系で探した会社だったからだ。
 彼女が入社した時、可愛いビスクドールのような子だと思った記憶がある。
 話してみると、春日いわく、世界が同じで、確かに彼女とはまるでずっと一緒にいたかのようにしっくり合った。

 


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