そんな顛末を今西は聞いたのだろう。
それ以降、佐々木も仕事は仕事とわきまえてはいたが、植山のことがあってから意識過剰になっているのかもしれない。
我に返ると、今の状況を思い出して、今度は頭痛がしそうだった。
気が付くとバットの快音は消えていて、佐々木はふいに強い視線を感じた気がした。
だが振り返る気力はなかった。
今西らが八木沼とバッティングの話をしていた。
今度は八木沼がバッターボックスに立つようだ。
「俺はしばらく昼、行ってくるから、自由に使っていいぞ、大輔」
ここにきて初めて聞いたその声の主が誰だかわからないはずはない。
バットケースを肩に引っ掛けて歩き出した沢村に、今西が声をかけた。
「そういえば、沢村選手、佐々木さんとは前の仕事で面識あるんですよね?」
強くなる佐々木の心臓の鼓動は、その言葉にさらに大きくなり、ドクンドクンと頭の中でまで揺すぶっている。
「どうも」
佐々木の横に立った男は、低くそれだけ言った。
佐々木は声を出すこともできず、ただちょっと頭を下げた。
足早に立ち去る沢村の背中を、佐々木は凝視した。
何を………。
俺は何を期待してたんや、あほやな。
とっくに………、とっくに沢村は俺のことなんか忘れとおるわ。
もう何の関係もない。
今更……………………。
足元がぐにゃりと蛇行しているかのような、憶えのない感覚に、佐々木は慌てて足を踏ん張った。
ところが膝が笑って力が入らず、崩れ落ちそうになって、佐々木は思わず傍らの斉田の肩に手を置いた。
「佐々木さん?」
「悪い、ちょっとけっつまづいてしもて」
言い訳をして手を離す。
たったこれだけのことにさえ、ショックを受けている自分に自分で驚いていた。
どないしょう、俺…………。
足が前に進まない。
心臓さえ動きを止めたかのように。
「佐々木さん? どうかしましたか? 顔が青いですよ?」
佐々木のようすがおかしいことに今西が気づいて、顔を覗き込んだ。
「いや、ちょっと、ここんとこ根詰めてたから、立ち眩みかな。面目ないですわ」
すると八木沼が駆け寄ってきて、「大丈夫っすか? すんません、俺のせい?」と何とも情けない顔で頭を下げる。
「いや、そんなんやないです。気にせんと」
「ほんまに? どっかで休みます?」
「いや、平気ですよって」
八木沼は今にも泣きそうな顔で、「ほんまに、すんません」とまた謝った。
案外気がいい男なのかもしれない。
植山などと並べてしまったのは申し訳ない気がしてきた。
ようやく、深く息をついた佐々木は、一歩前に進んだ。
「大丈夫なんで、バッティング、見せてください、八木沼さん」
醜態をさらして仕事の邪魔をしたことに、佐々木は自分で呆れかえった。
こんな、ことで、どないすんね…………。
大きなスイングで八木沼の打った打球は緩いアーチを描いて天井近くの壁に当たって場内に強い音を轟かせた。
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