目一杯の笑顔と期待に満ちた目で、八木沼は勝手に佐々木の両手を握りしめた。
「こないなめちゃきれいな人とと一緒できるとか、俺、超うれしい!」
大型犬のような無垢な目の八木沼は佐々木を覗き込んでいる。
「あ、いや、俺は……」
「え???? 男なん?」
それで離れるかと思った佐々木の両手を八木沼はさらに握りしめる。
「うっわ! これって、神様の思し召し云うやつ? 俺、初めてや! 男にめちゃときめいてしもた! すんげ、こないなことってあるんや!」
佐々木は思い切り八木沼の手を振り放した。
「ええ加減にせぇ! 共演者はあちらの平野璃子さんや!」
八木沼は佐々木の剣幕に言葉もなく突っ立っている。
ほんまに、こんなことほんまのタレントにやってたら、セクハラで訴えられるで!
佐々木はさらに、植山のことまで思い出して胸糞が悪くなった。
実際仕事先であからさまに誘われることは幾度となくあった。
ったくどいつもこいつも!
「まあまあ、お二人とも。申し訳ない、沢村選手のバッティングに夢中になって、ちゃんとご紹介してませんでした」
やり取りに気づいた今西が慌てて二人の間に入った。
八木沼のマネージャーもあとからやってきて斉田と名乗った。
「こちらはクリエイターの佐々木さんです。八木沼選手、あらためてご紹介します、今回共演される女優の平野璃子さんです」
今西はマネージャーに伴われておそるおそるやってきた平野璃子を八木沼に紹介した。
八木沼が平野にぎこちなく頭をさげるのを、むっとした目で腕組みをした佐々木は睨みつけた。
ったく、なんやね、あいつは!
「佐々木さん、ほんとに申し訳ない。八木沼選手はちょっとお茶目なんですよ。いつもは明るい気のいい人なんで、佐々木さん、こんなことで仕事降りるとか、言わないでくださいよ?」
今西が本気で佐々木をなだめにかかる。
「ほんっとにすみません、悪気はないんです。八木沼はああ見えて、若手選手の中では礼儀正しいやつで通ってるんですが」
八木沼のマネージャーまでも必死で頭を下げる。
「俺のことはもうええんで、ここはタレントさんとか選手のフォローするとこ違いますか?」
さっき自分で自分に腹を立てていたこともあって、余計に言葉もイラついて出る。
「いやしかし、佐々木さん、大抵はんなりしているけど怒らせるとやばいって、前に怒って仕事降りた前歴があるって、春日さんにも聞いてますからね」
今西が苦笑する。
ったく、春日さんも、そんな昔のことを。
あれは確か、まだ三十手前の、佐々木なりに血気盛んな頃のことだ。
春日がやはり大手経由で受けた仕事に佐々木も駆り出され、当時若手で売れっ子のモデル兼タレントの大倉航大を起用した広告プロジェクトだったが、最初からこの航大が佐々木に馴れ馴れしいを通り越して、べたついてきた。
最初は仕事だからと佐々木もわきまえていたとはいえ、それを逆手に取って言い寄ってきた航大にブチ切れて、仕事を降りてしまった。
プロジェクトはほぼ完成していたため、あとは春日が引き受けたのだが、佐々木の機嫌が戻るのに割と時間がかかったのだ。
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