この仕事が決まってから、八木沼が出た番組をチェックしたりしたが、沢村と一緒にパワスポに出た時も、関西弁で軽快な口調、会話を途絶えさせてしらけさせるというようなことがなかったのを佐々木も記憶している。
「滝口さんらとは現地で合流です」
「ああ、朱雀酒造の」
朱雀酒造、スリリングレモンの広報担当者で、滝口の部下の塩谷とともに、CMが好評でと、今度一席設けるまで言ってくれているのだが、佐々木としてはそういう気分ではないので、遠回しに断っている。
今西の現地でという言葉に佐々木は少し引っかかったものの、よもや「現地」がどこなのか着くまで思いもよらなかった。
「ここは……」
「アディノの屋内練習場ですよ。八木沼が昼なら打ち合わせできるし、その少し前なら取材もOKと言ってくれたんで」
みんなが降りるのに、佐々木だけぼおっとしているわけにもいかず、車を降りる。
平野璃子にマネージャーの木村から紹介されたのだが、かなり思考がパニクっていて何を言われたのか覚えていない。
佐々木は練習場に入っていく今西の後ろからついて行ったのだが、入るなり、カーンという威勢のいい音がしたと思うと、ボールがアーチを描いて遠くに飛んだ瞬間、ガン、っとボールが柵を越えて当たる大きな音がした。
「おはようございます! 今西さん!」
満面の笑みでやってきた大きな男は関西なまりで挨拶した。
ということはさっきからマシンを相手にガンガンと柵越えを連発しているのは見紛うはずもない沢村だ。
佐々木が思わず立ち竦んでしまったのは、沢村がいるというだけではない、その迫力にはっとさせられたからだ。
アディノのCM撮影では、ランニングシーンは外に出たものの、スイングのシーンは、スタジオでグリーンバックの前で行ったのだ。
それでも十分にその迫力は伝わったと思っていたのだが、先日チャリティイベントに行った時も実際に見るホームランに感動し、さらにここまで近くで実際のスイングを目の当たりにした佐々木は圧倒されていた。
同時に自分の仕事のあまりなずさんさを今思い知ったのだ。
自分がスタジオに行くからという沢村に従ってしまい、本物の沢村を見損なっていた。
空気感といい打撃音といい、スタジオなどでは到底比べ物にならない迫力だ。
「さすが、プロは違うぜ、ド迫力!」
「そういえば、沢村って確か、ポスティングでMLB行くって、騒いでなかったか?」
「だよな、あれって、いつの間にぽしゃっちゃったのか」
「沢村くらいな実力なら、向こうでもやっていけんじゃね?」
カメラマンの大崎と今西の部下の林がそんなことを話しているのが佐々木にも聞こえてきた。
あいつ、MLBって………まさか………! 俺は、何て愚か者なんや! そんな大事なことさえ、邪魔しとったとしたら……!
自分にはもう、沢村から離れるしかなかったのだと、そうしなければいけなかったのだと、佐々木はあらためて思い知る。
この一年、沢村にどれだけの無理を強いていたのかと。
「ひょとして、CMで共演する人なん? はじめまして!」
佐々木の思考を唐突にぶった切って、すぐ前に立った男を佐々木は訝し気に見上げた。
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