朝、十時半に迎えに行くからと今西に言われていた佐々木が十時少し前にオフィスに行くと既に直子は来ていて、室内は温かかった。
「おはよう! 今日一団と寒いね~! 昨夜お稽古遅くなったでしょ?」
「おはよう。はあ、みっちりやられよった。片付け終わったら一時過ぎ」
はあ、と、朝から佐々木は溜息をついた。
「しょうがないよね~ 若先生とか上級者は一門を率いて行かなくちゃだから、先生も厳しくなるのよ」
はい、コーヒー、と入れたてのコーヒーを佐々木のデスクに置いて、直子は一人頷く。
「おおきに。まあな~、オカンも俺がぼんやりなもんやから、よけいアタリも強くなるわ。聞いても、右から左やし」
佐々木は笑う。
「でも先輩方も佐々木ちゃんのこと一目置いてるよ? 決める時は決めるって」
「昔からの人、ずっとやっててくれはるからな、ありがたいわ」
苦笑いした佐々木は、コーヒーを飲んで壁の時計を見た。
「今日は八木沼っちと平野璃子と顔合わせだっけ?」
平野璃子は最近売り出し中の可愛い大学生で、CMやドラマにちょこちょこ出ている。
今回のCMには八木沼と共演予定だ。
「うん、そうなんやけど」
迎えにくるとか、顔合わせ、ホテルの部屋とかなんやろか。
「とにかく、超寒いからしっかりコート着てった方がいいよ」
打ち合わせやクライアントと会う時のために、佐々木もオフィスに何着かジャケットやコートなどを置いている。
そこから直子がチェックして、濃いグレー系のタートルに黒のパンツの上に、靴の色に合わせてキャメルの細身できっちり系のチェスターコート、スカーフを器用に巻いてくれた。
「佐々木ちゃん肌が白いから明るい色すんごく似合うよね! めちゃ可愛い!」
「はいはい、おおきに」
可愛いなどという表現に散々抵抗してきたが、もうここまでくると、直子に言っても意味がないと最近は諦めている。
そうこうするうちにオフィスのドアが開いて、今西本人が現れた。
「おはようございます。お迎えに上がりました」
「おはようございます。よろしくお願いします」
駐車場には白いバンとセダンが停まっていて、セダンには平野璃子とマネージャーが乗っているらしかった。
「にしても、佐々木さんはほんと、スタイリッシュですね、今日も」
「ああ、これ、うちのスタッフの池山なんです。俺はてんで着るもんも無頓着で」
すると大いに合点したように今西は頷いた。
「なるほど! そうなんですか」
どうやらいいクリエイターは見かけにこだわらないという彼の持論が肯定されたようで、俄然今西は機嫌よくなった。
バンにはディレクターやカメラマン、営業部の今西の部下らが乗っていて、佐々木に愛想よく挨拶してきた。
機嫌はよさそうだが、既に仕事モードの今西は、今回のプランについていろいろと語り始めた。
ユニフォーム姿でスイングしている野球モード編、ユニフォームを脱いだプライベート編、海辺をランニングするトレーニング編など、どれも野球選手を使ったCMのいわばセオリー通りのプランだ。
「でも、八木沼は結構トークにも期待できるんで、いわゆるスポーツ選手にありがちなセリフ棒読みってのはないだろうと踏んでるんですがね」
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