好きだから98

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「はあ? そんなこと佐々木さんが言うわけない!」
「事実さ。もう俺の顔なんかみたくねぇんだろ」
 良太に言い返して自棄気味に沢村は残りのビールを飲みほした。
 そこまで嫌われたとは思いたくはなかった。
 けど、俺がいることが佐々木さんの感情を逆撫でるってことだ。
「お前、それで……」
「やっぱ俺にはお前しかいない!」
 良太の言葉を遮って、沢村は良太に抱きついた。
 これ以上俺の我儘だけで佐々木さんを苦しめるとか、したくないよな。
「おい、離……せ………くるし………」
 とその時、襖が開いて、かおりと肇が現れた。
「え、何、? お邪魔だった?」
 かおりが二人を見て言うと、肇が居心地悪そうな顔をした。
 はっとして良太は沢村を力いっぱい引きはがす。
「ちょ……ちょっと、こいつに気合いれてたんだ」
「いいのよ、隠さなくても、私たちの仲じゃない」
 かおりは意味ありげな視線を向けてフフッと笑い、バッグを置いて向かいに座る。
 無表情の肇はうっす、と言っただけでその隣に座ったが、もろ疲れてますという顔だ。
「だよなー?」
 かおりに合わせて沢村がへらっと応える。
 そういえばこいつら、スキーの時すっかり二人の世界で、沢村と佐々木さんの顛末も知らなくて、まだかおりは沢村と良太がつきあっていると勘違いしたままだったんだ、と良太は思い出した。
 やがて沢村がオーダーした料理が運ばれてくると、かおりは並んだ料理をざっと見まわし、メニューを開いた。
「すみません、生三つと、揚げ出し豆腐、あん肝、豚しゃぶサラダ、鯛しゅうまい、天ぷら盛り合わせ、ほっけ、とりあえずお願いします」
 スタッフがオーダーを確認して部屋を出ていくと、「よくそんなに食えるな」と肇がぼそりと呟いた。
「あら、年末の残業くらいで胃の調子を崩す方が柔すぎるんじゃない?」
 つん、とかおりが言い返した。
「係長とかなってみろ、上にも下にも気を使って仕事もこなさなきゃならないんだ」
「悪かったわね、お気楽な派遣で。こう見えても私、ボスには覚えめでたいのよ。係長さんほどじゃなくてもね」
 おいおい、沢村の言動が気になりまくりだってのに、まさか、こっちもきな臭くなってんじゃないよな?
 良太はつんけんと言い争う二人をなだめにかかる。
「まあまあ、二人とも、忙しくてお疲れのところ、なんだけど、せっかく久々集まったんだし、ここは楽しくいこうよ」
 何だかあちこちで間を取り持つようなことばかりやってないか? と良太はしばしおのれの行動を顧みる。
「そうね、こんな風に顔合わせるの、次はないかも知れないし」
「それはどういう意味だよ、オフクロの言ったことまだネにもってんのかよ」
 ジョッキを持ったかおりがすました顔で言うと、肇がすぐ反応した。
「飯島家の嫁はどうたらこうたら、あたしは別に肇の家の嫁になるつもりとか、ないから。悪いけど」
「だからオフクロは頭が固いからあんな言い方になるんで、それを言ったら、かおりのお母さんだって、水野の家の一人娘だから嫁に出すわけじゃないとかなんとかって」
 かおりも肇も互いに譲らない。
 


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