「今夜パパと一緒にご飯たべるんだよね?」
今度は子どもの甲高い声が目を閉じた工藤にもよく聞こえてきた。
「そうね」
「今夜こそ、サンタさん来る? プレゼントくれる? 夕べは来なかったよね?」
「そうね」
女性は一人乳飲み子を抱えているため、上の子のことまで目が行き届かないようだ。
何とかデーのプレゼントだのはこれまでいやという程工藤宛に届いているが、ありがたいなどと思ったことはほとんどない。
少しでも心が動いたのは、遥か昔、あまり可愛がってくれているとは思えなかった曾祖父と曾祖母からの誕生日やクリスマスのプレゼントくらいだろう。
そういえば、学生時代ちゆきにもペンか何かもらったな。
せいぜいそんなところだが、良太のお歳暮やお中元は妙に嬉しく思ったものの、口にしたことはない。
工藤の隣の席が空いていたため、子どもがたたっと走ってきたと思うや、その席にちゃっかり座った気配に、工藤は訝し気な顔で目を開けた。
途端、工藤と目が合った子どもは一目散に母親のところへ逃げ帰ってビービー泣いた。
「ママああ、怖いオジサンがいるう~!」
るせえな、聞こえてるんだよ。
「だから言ったでしょ! いい子にしてないと叱られるって」
俺はただ目が合っただけだ。
ガキが勝手に泣いたんだろうが。
眉を顰めながら工藤はまた目を閉じた。
三時を過ぎた頃、ようやく新幹線はのろのろと動き始めた。
それからひと眠りした工藤がまた目を覚ますと、名古屋だった。
まだ名古屋か。
時刻は四時を回っている。
先ほどの親子連れは名古屋で降りたらしく、車内は静かになった。
だがボソボソとまだ着かないのかといった文句がちらほら聞こえていた。
列車が動き出すと工藤はいつしかまた眠っていた。
乃木坂にある青山プロダクションのオフィスでは、工藤からの電話を切った広瀬良太がつい壁に掛かる時計に目をやった。
「工藤さん、新幹線に乗ってらっしゃるの?」
経理その他こもごもの仕事を引き受けてくれている鈴木さんがパソコンから顔を上げた。
「ええ、関ケ原あたりの大雪で新幹線立ち往生らしいです」
良太はテレビをつけた。
運よく情報番組内で、大雪が交通機関に及ぼしている状況を告げていた。
「まあ、近年にない大雪ですって」
鈴木さんが声を上げた。
「何か、東京も夜には雪になるらしいとか言ってたましたよね」
「ええ。帰りはスニーカーにした方がいいかしら」
鈴木さんは冬になると、いざという時のためにスニーカーを常備している。
外を見ると空はどんよりと今にも何か降りそうな色だ。
「ちょっとの雪でも東京の交通機関弱っちいですからね、今日は早めに上がっちゃってください。俺も三時過ぎには出ますから」
「東洋商事に行くんでしょう?」
「ほんとは工藤さんと一緒に行く予定でしたけど、俺一人で行けってことになっちゃって。『やさか』で頼んであるお菓子を受け取ってから行くつもりですけど」
雪が降る地方へ行く可能性もあるので、車にはスタッドレスを履かせているが、車で出て雪でも降って交通渋滞とかに引っかかると元も子もない。
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