大きなガタイに似合わず、研二は繊細な和菓子を造る菓子職人である。
「こっちは会社用、こっちは小夜子さん用や」
小夜子は綾小路紫紀の妻で、日本橋の老舗呉服問屋大和屋の一人娘であり、現在は取締役兼広報を担当している。
そして小林千雪の従姉にあたるため、必然的に夫妻で青山プロダクションとは縁がある。
にこやかに研二に送り出された良太が外に出た途端、ポツリポツリと雨がこぼれ始めた。
傘を広げたが、ひどい降りではないので、当初の予定通り、良太は東洋商事ビルまで歩いて向かうことにした。
やがて丸の内仲通りに近づくと色鮮やかなイルミネーションに迎えられた。
「やっぱ、これだよな、クリスマスの醍醐味って」
そりゃ、恋人と一緒に歩くってのがいっちゃんいいかもだけど、一人で眺めながら歩くのだっていいよな。
きらめく光の渦は華やいだ気分にさせてくれる。
実際この中通りのイルミネーションはクリスマスだけでなく、冬の風物詩となっているのだが、やはりクリスマスという特別なイベントが一番似合っている気がする。
気分よく東洋商事ビルまで歩くと、普段紫紀は社長室より統合本部の企画広報室にいることが多く、今回も良太は本部長室へと通された。
「『やさか』さんのお菓子ですね、ありがとうございます」
紫紀はにっこり笑って良太の手土産を受け取った。
会社用の他に、紫紀個人用にも持参した。
「今日はクリスマス用のお菓子で、とてもきれいなんです」
「それは開けるのが楽しみです。小夜子も喜びます」
小夜子は千雪の家をたまに訪れると、研二の実家の和菓子を必ず買って帰るほどで、東京に支店を出すことがちょうど決まった頃、紫紀との結婚が決まり、披露宴用には『やさか』の研二の菓子を使ったのだが、その繊細な職人技が創り出す美しい和菓子はひどく評判となった。
無論きれいなだけでなく、品の良い甘みは絶妙だ。
「さっき工藤さんともお話したんだけど、正月の初釜、お二人で出席してもらえることになってよかった」
「あ、はい、 喜んで伺わせていただきます」
って聞いてねえし。
う、二日は大和屋で、正月は立て続けに初釜かよ。
良太は今から足のしびれが予想でき過ぎてうんざりだ。
「そう言えば、ドラマの方、本格的に進行しつつあるらしいね」
「はい。宇都宮さんにもお話したら、アクションとか面白いと快諾していただきました」
良太ちゃん宇都宮のお気に入りだから、きっとOKくれるよ、なんて脚本家の坂口にたきつけられ、工藤までが宇都宮と鍋やるんだったな、などと暗に良太にオファーを丸投げしてくれたというのが本当のところなのだが。
大体が大物人気俳優宇都宮俊治のスケジュールなど数年先まで埋まっていると言って過言ではないタイトなところへ、ドラマのオファーなどムリ難題なのだが、あえてそこを頼み込む場合、空き時間を使っての撮影でもよしとしなければならない。
「バディを組むのがうちの小笠原祐二で、こちらもやる気十分なので、ご期待頂けるかと思います」
紫紀はにっこりと笑う。
「それは頼もしい。ところで、一つ良太ちゃんにご相談なんだが」
「はい」
良太は姿勢を正した。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
