限りの月9

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 東京駅はごった返していた。
 新幹線は約三時間遅れで到着し、疲れた顔をした乗客もホームに降り立つとほっとしたような表情に変わり、それぞれの目的地へと足早に向かう。
 だが既に暗くなっている車窓からも街並みが白く覆われているらしいのはわかるし、ホームでは降りしきる雪に、東京だよな、とつい疑いの目を向けたのは工藤だった。
 一体どうなってるんだ、この天気は!
 矛先を向ける相手がいない怒りに、工藤はイライラしつつ足早に歩き出した。
 北のりかえ口へと階段を降り、改札を抜けると丸の内北口へとたったか歩く。
 北口改札を抜けたところで丸の内テラス方面へ向かおうとしたその時、工藤の目の前を歩いていた老齢の女性が転んだ。
「おい、誰か、駅員……」
 駅員がこんなところにいるわけもない、仕方なく工藤は女性に声をかけた。
「大丈夫ですか」
「あ、すみません、よいしょ」
 起き上るのも億劫なようすで、工藤はイラつきつつ女性の腕を取って引き上げた。
「あ、おおきに、ありがとうございます」
「キョロキョロしているとまた転びますよ、気を付けて」
 そう言いおいて立ち去ろうとした工藤の腕を女性が掴む。
「あの、すみません、八重洲北口へはどう行けばええんですやろ」
 和服の老婦人が転んだので手を貸したら、部屋へ連れて行けと言われた。
 どこかで聞いたような話が頭に浮かんだ。
「八重洲口は逆側ですよ。改札に戻って駅員に聞いて……」
「聞いてから歩いているんですけど、さっぱりわからなくて」
 クソ駅員、こっちの住人でもわかりにくくて時間のかかる東京駅の地下通路を明らかにどっか関西あたりから出てきたお上りさんのババアに教えてどうやって理解しろって言うんだ。
「すみませんが、連れて行っていただけませんやろか」
 工藤は小さく舌打ちした。
 俺はそんな親切な人間じゃないんだ。
「改札に戻ってからじゃないと向こうにはたどり着けませんよ。こちらです」
 仕方なくまた改札に戻ろうとした工藤だが、小柄な老婦人は手荷物を目一杯抱え直して、またちんたら歩き出した。
「荷物持ちましょう」
 その方がちんたら歩かれるよりいくらかマシだ。
 改札に来ると、手っ取り早く入場券を二枚買い、婦人に一枚渡して改札を抜ける。
「ほんまに助かりました」
「どなたかお迎えには?」
「はあ、孫が来とりますはずなんですけど、八重洲北口いうところまで。もう約束の時間がとっくに過ぎてしもて」
 ったく、こんなわかりにくい改札で待ち合わせとかさせるなよ、携帯も持たないババアに。
 心の中でまだ見ぬ老婦人の孫を罵りながら、工藤はたったか歩いて行く。
 老女は一生懸命工藤の後をついて来る。
 八重洲北口の改札が見えてくる。
 こっちの方が約束の時間を過ぎてるんだ。
 改札を通り抜けたところで、「ばあちゃん!」という若い男の声がした。
「博則!」
「どこ行ってたんや、探したんやで」
 駆け寄った博則に、工藤は荷物を差し出した。
 すると博則は険しい顔になって突っかかった。
「何だ、あんた?!」
 ジロリと工藤は博則を睨み返した。

 


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