たまにはクリスマスを2

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 以前、千雪が幼馴染の江美子の死をきっかけに京助や研二のことで思考回路がシャットダウンしてしまい、あげくに文章が書けなくなったことがあり、当時は多少売れたとはいえまだ駆け出しに近い作家だったこともあって、書けないというと担当編集者は雑誌の掲載を止めてくれたものの、その時、次はないかも知れない的に言われ、事実上干されたという経緯があった。
 千雪としては最初に自分の作品を取り上げてくれた編集部だったので書いていたのだが、その編集者は千雪の珍妙なオヤジイメージを信じ切って、臭そうとでも思ったのか、編集部で打合せをして千雪が帰ろうとすると、座っていた椅子を除菌していたり、千雪の部屋には絶対入ろうとしなかったり、千雪が携帯を持っていないというのを真に受けて家電にしか電話してこなかったりで、機械的に原稿をネット経由で送り、バイク便で校正が届くというやり取りしかしていなかった。
 干されたとはいえ、それはそれで千雪はのんびりできると、かえってありがたかったわけだが、ぼんやり本を読んでいるだけの千雪を心配した京助は、千雪を可愛がっている法学部の宮島教授をたきつけて、千雪を連れてたったかニューヨークへ留学してしまった。
 日本を離れていたのは二年程、その間、千雪の小説を原作とした映画が封切られ、そこそこヒットし、ニューヨークへ千雪を訪ねてやってきたプロデューサーの工藤が紹介したのが、今の編集担当である講英社の多部だった。
 多部は千雪の小説のファンを名乗り、当時は書けるまで待つ、何か書けたら連絡をくれというスタンスだった。
 京助にとってはキャリアアップ、千雪にとっては充電期間の二年をニューヨークで過ごしたのち東京に帰ったのだが、千雪を待ち受けていたのは、留守の間に空き巣に荒らされたアパートだった。
 ピッキングされたドアや部屋中引っ掻き回された有様を見た千雪は、長年住み慣れたアパートを仕方なく離れることにした。
 いくら従姉の小夜子が京助の兄紫紀と結婚したとはいえ、綾小路家の持ち物であるマンションに入ることには、千雪は綾小路家の世話になるようで嫌だったが、京助のセキュリティ万全という言葉に渋々頷いて、京助の部屋の真下にあたる今現在の住居に越した。
 ところが最近のことだが、原稿の催促に部屋を訪れた多部に京助との関係やいつものオッサンジャージの千雪がフェイクであることが知られてしまい、結果のらりくらりの執筆スタイルが多部相手には通用しなくなり、携帯を切ってサボっていると家にまで押しかけてくるようになったというわけだ。
「あ、よかった、良太、いてる」
 さて、翌日の午後、千雪がやってきたのは、乃木坂にある青山プロダクション、千雪の小説を原作に映画を作ったプロデューサー工藤のオフィスである。

 


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