Winter Time19

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「そうだな。そんなこと思わないでもないけど、俺、今は今のことで精一杯だしな~ 余裕ないってーか」
 良太ははたと現実に舞い戻る。
「良太はいつでも真剣なんだもんね、だから好きよ」
 面と向かってそう言われ、良太は言葉が出てこない。
「やっぱあれよね、オッサンなんか好きになるもんじゃないわね~、世代が違うのよ、世代が」
「オッサン…だったのか?」
「うん、四十代半ばだけどさ。見た目のカッコよさにだまされたって感じ? 最初は仕事できるし、大人~って雰囲気で、それに惹かれたんだけど、結局、私の気持ちなんてわかってもらえなかったんだって」
 良太の中で、何か身につまされるものがある。
「奥さん、知ってたのよ。私のこと。でも最後は粘り勝ちっていうか、ずっと子供できなくて苦労してたみたい。それがさ、やっとできたらしいの。まあね、それを聞いて奥さんのもとに戻るって決めたってこととか、みんなの前で私に関係ばらされても言い訳ひとつしなくて、去り際も潔かったこととか、さすがに私が好きになっただけあるって」
「何だよ、結局のろけてんじゃん」
 かおりはまたうふふと笑う。
 笑顔が可愛いのは、いい女に変身した今も全然変わっていない。
 その時何気に腕時計を見た良太は、十一時を示す文字盤に目が釘付けになる。
「わああーーっ、しまった! 服、俺の服!」
 喚くなりベッドから飛び出し、良太はあたふたとあたりを見回した。
 この際、ワイシャツ一枚でもかおりの手前を気にしてる間もない。
「スーツは皺になるから、そこのパイプハンガーにかけたわよ。どうしたの? 急に」
「社長! 工藤さんの迎え、行くことになってたんだよ~! どうしよう、こんな時間…!」
「あ、それ、言うの忘れてた。夕べ、社長さん、そんな酔ってちゃ無理だから、今日の迎えはいらないって」
 もどかしげにベルトを止めようとしていた良太は、手を止めた。
「え………? 夕べ………? かおりちゃん、社長に会ったの?」
 ほけっとした顔で良太はかおりを振り返った。
「やだ、ほんっとに覚えてないんだから。ついでに私たち焼けボックイに火がつくところですって、自己紹介しといたから、大丈夫よ、どうなっても」
「か……かおりちゃん、な…………何それ、ほかに何言ったの? 工藤に?」
 今度はかおりに詰め寄らんばかりに問いただす。
「何って、別にただ、良太の同級生かって聞かれたから、野球部の良太の元女房役のキャッチャーと元マネで元カノだって言っただけよ」
 ベルトを止めかけで良太はまたベッドに腰を下ろした。
「そっか……」
 あれ、夕べのことだったんだ…………どうりでリアルな夢……何かやばいって気がしたのはそれだったんだ。
 ご、誤解してないよな、工藤さん…。
「社長さん! すっごいステキな人よね~……業界のジョージ・クルーニーかブラピかって感じ? ね、独身? じゃなくても、ねえ、今度、紹介してよ、良太」
「な…ブ、ブラピとか言い過ぎじゃね? オッサンには懲りたんじゃなかったのかよ!」
 かおりの唐突な発言に、良太は思わずうろたえる。


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