Winter Time18

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「何言ってんの、まさか覚えてないとか言わないでよね」
「…………な、何を?」
 一瞬ぐっと息が止まる。
「やーね、夕べ飲んでここにきたんじゃない。良太とっとと寝ちゃうし、あたしたち勝手にいろいろ使わせてもらったわよ」
「そ、そっか、そだ、肇、肇は?」
 もしかして酔った弾みで何かやっちゃったんだろうか、なんて思ったりしたが、二人きりじゃなかったんだとわかり、良太はちょっと胸を撫で下ろした。
「コーヒー飲んだら、慌てて帰ったわよ。休日出勤なんですって。でもいいわね、ここ。一人で住むんだったら。十四畳くらいある? バスルームには乾燥機もあるし、レンジオーブンもついてるのに、キッチン使ってないでしょ? 冷蔵庫、ろくなもん入ってないし」
「ああ、外で食べること多いし、俺、料理なんてできねーもん」
 さすがに女性はそういうところはしっかりチェックしているのだ、と良太も感心する。
 ちゃんと料理なんかしたのは一度妹の亜弓がきた時くらいだろうか。
「いいなー、あたしここに住んで、ご飯作ってあげよか?」
 いきなり大きな目でじっと見つめられて、良太は思わず身を引いてしまう。
「え……、いや、俺は、その……」
「その反応! なーんだ、やっぱ彼女いるんだ? せっかく焼けボックイに火がつくかな、なんてちょっと期待してみたのにさ」
「焼けボックイって…」
 焼けボックイ? 最近どこかで聞いた気がする。
「また、からかうなよ。か、彼女、なんていないけど、かおりちゃんこそ、彼氏いるんだろ?」
 言葉を濁した良太は逆に聞き返した。
「え、ほんとにいないの? あたし今フリーなの。ついこないだ別れたばっかだけど。奥さんとは別れるとかって言うから三年もつきあったのよ? それがさ、奥さんに子供できたなんていうのよ。いい加減ばっかばかしくって、こっちから会社で三行半叩きつけてやったわよ。結局彼、会社は辞めたけど。いい気味よ、このご時世に再就職なんて大変よね~」
 かおりが不倫していたと聞くと、さすがに良太も内心穏やかではない。
「…………んで、そこへちょうど俺の話が持ち上がったもんだから、気分転換に会おうなんて思ったってわけか」
 良太は心の中でなるほどな、と頷いた。
「私の純粋な恋を気分転換だなんて言わないでよ。良太が大学合格するまでは邪魔しちゃいけないって、影で合格祈ってたのにさ、良太ってば、合格しても、野球三昧で私のことなんか思い出しもしなかったんでしょ」
「え………」
 思わぬ告白に、良太はかおりをまじまじと見つめる。
 てっきりかおりの方が自分のことを忘れてしまったと思っていたのに。
「やだ、良太、すぐ真剣になる」
 かおりがふふふっと笑うので、さすがに良太もムッとする。
「俺のことからかってんのか? 俺だってあの頃は真剣に………」
「違うって。わかってるよ、あの頃はお互いに真剣だったよね。いい時代だったと思わない? 子供で純粋でさ。何か今の自分がバカみたいに思えてきちゃうくらい。何やってんだろって」
 かおりは大きくため息をついた。

 


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