ほんの少し届かない12

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 京助には初っ端からあまりいい印象を持っていないので、心情としては良太もアスカ寄りだ。
 アスカも良太もよく思っていないところの綾小路京助はちなみに紫紀の弟で、T大法医学教室の准教授だ。
 普段モルグに籠っている京助には、想定外の仕事が飛び込んでくることもあるらしい。
 それがたまたま去年のことだった。
「時間があればイブのパーティ、工藤さんも誘っておいで。そうそう、週末の忘年会にはまたお邪魔させていただくからね。今年は何が当たるか楽しみだなぁ」
 おっとそうだった、と藤堂の電話が切れたあとで、良太は年末にかけてのさまざまな雑事のことを思い出してぞっとする。
 その第一弾が毎年恒例の取引業者を招いての忘年会だ。
 会場はいつものように会社の五階にあるレセプションルームである。
 パーティや接待のために設けられたフロアは、ホテル並みの設備が施してある。
 イタリア製のソファやテーブル、フロアスタンドといった家具や厚い絨毯、照明からバーに至るまでシックで重厚な雰囲気で統一され、なかなか居心地のよいスペースだ。
 ただ、今年はセッティングをサービス業者に任せることになってはいるものの、取り仕切る責任者は良太である。
 料理は老舗ホテルのケータリングサービスを随分前に予約してあるが、派遣されてくるホールスタッフには俄か仕込みの学生バイトなどがいたりするので、気を配る要素は多分にある。
 工藤さんも誘っておいで。
 ふと良太の頭の中に藤堂の言葉が舞い戻る。
 あれって、別に意味はない……よな?
 二十四日は工藤、名古屋だっけ。
 藤田自動車の会長と会うって。
 世界の自動車産業を牽引するグローバル企業フジタ、その立役者である藤田栄治郎会長と工藤は東洋商事社長綾小路紫紀とのゴルフの際に顔を合わせ、何でも藤田がえらく工藤を気に入ったとかで、この冬もスポンサー契約を取りつけたところだ。
 何時に戻るかもわからないしな。
「なんだい、彼女からデートのお誘い? いいよ、抜け出したって。せっかくのクリスマスシーズンなんだし」
 美味そうに煙を吐き出しながら、下柳がにこにこ。
「違いますって。『プラグイン』の藤堂さんですよ」
「藤堂、って、ああ、英報堂の? こないだも仕事でチラッと会ったな」
「え、英報堂の時の藤堂さん、知ってんですか?」
 飄々と語る下柳に良太は聞き返した。
「ああ、河崎と藤堂といや、あの頃、若造のくせに手がけた仕事は必ず当たる、掃いて捨てる程オンナは群がる、傍で見てるこっちは面白くねぇよ、揃ってええとこのボンでしかもこ憎たらしいことにイケメンでよ」
 眉をひそめて言う下柳を見て、良太は笑う。
「でも、藤堂さん、いい人ですよ、面白いし」
「何、良太ちゃん、そんな、親密なおつきあい?」
 下柳は怪訝そうな顔を向ける。
「親密って程でも……前にCMに出してもらった時もお世話になったし、よくおいしいもの持ってきてくれるんですよ」
 説明しながら、藤堂さんってやっぱちょっと変わってるのかな、などと良太はにこやかなその顔を思い浮かべた。

 


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