ほんの少し届かない13

back  next  top  Novels


「ほお~、何そのパーティってのも、美味いもんあり? 酒も?」
「多分。去年は美味しいシャンパンもたくさん並んでましたよ。あとで小笠原に聞いたら、すんげく高いのばっかだったって。ブブクリコとかドンペリとか。美味しいはずですよね。残念ながらうちの会社の忘年会じゃ、ちょっとサービスできないかな~」
「何だよ、焼酎『隠し蔵』とかないのかよ」
 下柳にとって美味い酒とはどこまでいっても焼酎らしい。
「さあ、名前はわかりませんけど、焼酎もいろいろあったな~河崎さんが焼酎好きらしいですよ。高級ワインかなんか飲んでそうだけど。意外にも」
「おう? なかなかわかるヤツじゃねぇか、英報堂のくせによ。ちっと見直したぜ。ほんじゃ、俺も一緒に行っていんだろ、そのパーティ」
 親交の基準は奥が深そうで、実は案外単純だったりする。
「え、いいと思いますけど」
「へ、パーティ? クリスマス? ヤギさん、抜け駆けはずるいっすよ、俺も俺も」
 二人の話を漏れ聞いた制作スタッフがわらわらと割り込んできた。
「こいつ、つい一昨日、今までで唯一の彼女に振られたばっかなんで、がっついてんです、クリスマス前に」
「ほっとけよ! あんな女のことはもう過去の話だ! お前こそ、木村ほのかがIT企業社長と結婚決まったっつって、合コン合コンって騒いでたくせによ」
 銜え煙草で三十路もあとわずかの村井が同期の石川に突っ込みを入れる。
 他の若いスタッフも睡眠時間を削って仕事づけの毎日を送っているから、彼女と会う時間もなかなか作れないのが現状だ。
「木村ほのか? お前あんなのが好みか? 確かに美人だが、女優としちゃ、もうちょっとってとこだなあ。まあ、結婚しちまうとそれが吉と出るか凶と出るかだな」
 トレードマークのひげもさらに伸びて、完全な無精ひげとなっている下柳がひとりうなずく。
「なんか、今年のうちにって大掃除じゃあるまいし、やたらゲーノーカイでも結婚ラッシュっすよね~、受付の真紀ちゃんも俺らが撮影に行ってる間に結婚しちまうし。どっちをみてもラブラブ」
「この一角だけ、ラブラブクリスマスなんかには縁がなさそうですよね。上が上だけに。はああああ」
 北海道出身のカメラマン葛西が大仰にため息をついた。
「きさま、俺のせいにしよってのか? んなもの、自分の甲斐性のないせいだろ」
 下柳がのんびりと反論する。
「でも良太はいるんだろ? 彼女」
 村井が急に良太に振ってきた。
「へ? いませんよ」
 咄嗟に躊躇しながら良太は首を横に振る。
「おい、俺たちに隠しごとはなしだぜ?」
「いや、ほんと、彼女なんていないですよ……ずっと仕事で手一杯で」
 まあ、彼女でなくて気になるオヤジなら、一人いるけど。
 全くなんでオヤジなんだかな~ しかもウソツキだし。
「くっそ、もうこうなったら、俺には有馬記念しかないっ!! サンタさん、どうか俺のプレゼントは万馬券でいいっす……」
「お前んとこなんかにサンタがくるか! とっとと仕事しやがれ!」
 お祈りポーズの石川の後ろ頭を村井がはたいてスタジオに入っていく。
 だよな、んなこと考えてるバヤイじゃないんだってば!
 自分に活を入れてあとに続こうとしたところで、また良太のポケットで携帯がワーグナーを奏でた。
「はいっ、……お疲れ様です!」
 最近携帯の機種変更をした際、工藤用着メロをベートーベンの『運命』から『ワルキューレの騎行』に変えた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます