「今夜は札幌で足止めだ。雪がすごい。明日事務所に寄るつもりだったが、直接大阪に行く。そっちはどうだ? 忘年会の準備は大丈夫か?」
「あ……はい、忘年会の方はご心配なく」
「あとを頼む」
「はい、あの……」
言いかけた言葉は工藤には届かなかったようだ。
何日か前の夜中に言葉を交わして以来、すれ違いで顔も合わせていない。
今日は戻ることになっていたが、急な寒波が降りてくると予報で言っていたのが当たったらしい。
「暖冬じゃなかったのかよっ!」
思わず何かに当り散らしたくなった良太を下柳が振り返った。
「どした?」
「あ、いや、何でも」
良太は慌ててごまかした。
「疲れてんな、良太ちゃん。今夜は適当に切り上げて飲みに行くか?」
「え……いや……」
「賛成!」
「ぱあっと盛り上がりましょう!」
良太が返事をする前に、他のスタッフがもうその気になっている。
どちらかというと、早めに上がってためている自分の仕事をしたかった良太は苦笑いとともにため息をついた。
十五日、取引業者を招いての忘年会を夜に控えて、忙しく電話で連絡を取る良太の横で、ふらりとやってきたアスカがのんびりと紅茶を飲んでいた。
「え~~、あたしも藤堂さんとこのパーティ行きたい~」
イブのパーティの話を良太から聞いたアスカは口を尖らせる。
「だって、アスカさん、今年のイブはパリでしょう? すてきじゃありませんか」
羨ましげに言う鈴木さんが届けられたお歳暮の中から美味しいクッキーを振舞うと、アスカは早速それに手を伸ばした。
「教会でクラシックコンサートよ、連日。藤堂さんとこのパーティの方がずっと楽しそう。隣は秋山さんだしさ。まあ、秋山さん連れてると見栄えがするからいんだけど」
「人をショーウインドウのディスプレイみたいに言わないでください」
ぶつぶつと文句を言うアスカに、秋山が口を挟む。
元エリート商社マンの秋山は常に存在感を消しているようだが、最近縁無しの眼鏡をかけ始めて端正なマスクがさらにクールになり、確かにビシッとスーツを着こなして立つ姿にも隙がない。
件のアルテミスのCM以来、ドラマの評判もよくてアスカの人気はかなり上の方で定着しつつあり、CMの本数も増え、年末はパリでCM撮影の予定である。
たまたま今日の夜は忘年会にあわせたようにポンと時間が空いたのでアスカもこうしてのんびりしているのだ。
「うちの社員ってさ、ルックスは俳優顔負けなのに、中身が難ありばっかなのよね~ 工藤さんも秋山さんも。良太なんかそこそこいけてるのにさ、誰かさんに遠慮して」
「どこに難があるんです? 聞き捨てならないことを言わないで下さい。それより、明日は早いですから、今夜は早めに切り上げます」
「はあい」
秋山に言われて渋々アスカは返事をした。
アスカの言っていることは良太にも聞こえていたものの、そんなゴタクに付き合っている暇はなかった。
「…え、三人も都合つかないんですか? あと一人くらい何とかならないでしょうか? ちょっと四人では……、去年よりお客様が多いので、ええ、お願いします」
案の定、派遣されることになっていたホールスタッフが数人急に都合つかなくなったと連絡があり、良太は四苦八苦していた。
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