ほんの少し届かない8

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     act 2
 
  
 

 街中がカボチャとコスプレの団体に覆われ、大騒ぎを鎮めるために警察が駆り出された十月も終わり、街路樹が落とした葉で舗道が黄金色に染まる頃になると、変わり身も早くショーウインドウは華やいでクリスマス気分を盛り上げ、浮かれ気味のメロディに誘われるように老若男女は巷に溢れ出していた。
 現実は東京などではあまたのクリスマスソングが歌い上げるような雪のクリスマスなんて程遠く、温暖化現象でこの先ホワイトクリスマス自体なくなるかもしれないというのに、とりあえずクリスマスから正月へと移行するこの浮かれ気分に便乗して歳末商戦を乗り切らねばならないと、世の中は徐々に今年のラストスパートをかける。
 駆け抜けるように十一月が通り過ぎ、師走ともなれば青山プロダクションも例に漏れず、鈴木さん以外全員出払っていることも多くなった。
 常時会社に出勤しているのは良太と鈴木さんくらいなものだが、社長の工藤は前にも増してオフィスに留まる時間がなさそうだった。
 もっとも、夜遅くにオフィスに戻り、社長室の灯りが午前零時を過ぎて灯ることもよくあることだ。
 プロデューサーとして名を連ねるスポーツ番組『パワスポ』の打ち合わせのあと、たまたま良太が忘年会という名目でスタッフと街に繰り出し、酔いを醒まそうと歩いて戻ってきたのは午前一時だった。
 ふと見上げると六階に灯りがついている。
 工藤がいるらしい。
「しゃあない、コーヒーでも持ってってやるか」
 一旦自分の部屋に戻ってジャージに着替えると、足元に絡みつくナータンにご飯をやり、湯を沸かす。
 ここのところ言葉を交わす暇もないくらいだが、たまに垣間見る工藤の表情からは疲労の影が消えない。
「身体を気遣えなんつったって、聞く耳もたねんだもんよ、あのオヤジは」
 嫌煙家のアスカは真っ向から、煙草やめてよ、だし、良太は身体のことを考えて本数を減らした方がいいと折に触れて言っているし、環境も喫煙家には厳しくなっているものだから、工藤も意識して本数を減らしているようだ。
 だが最近忙しいせいか、会社にいる時はまた灰皿の吸殻が山積になっている。
 普段、さほど吸う方ではない秋山からして煙草をくわえていたりするのだから、会社の仕事が飽和状態と考えてもあながち間違ってはいないだろう。
 万年人手不足。
 原因はそれにつきる。
「募集しても面接で逃げ出すもんばかりで」と、工藤一人ではどうにもならない細々した会社の雑用をやっていた頃を思い出しながら、平造が良太に話してくれたことがある。
「仕方なくわしが客の応対やら電話の取次ぎしとったが、何の事務所じゃ思われかねんかったしなぁ」
 工藤には指定暴力団組長の甥という、縁を切っているというだけではどうにもしようがないダークな出自のせいで、取引先としてのスポンサーは得られても、会社の中に足を踏み入れるということになると誰もが躊躇してしまう。
 しかも、大手が多角的に業務を繰り広げているのと違い、もともと企画制作畑の工藤が会社を創業した当初、今では独立している俳優の小野万里子や志村嘉人を抱え込んだことからやむを得ずタレントのプロモーション業務にも携わざるを得なくなった。

 


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