「や、まあ。でも俺、とりあえず野球三昧で卒業しましたってだけだし」
「え、野球やってたの?」
兄の影響でMLBのファンになり、今はボストンに住んでいるのでレッドイーグルスのファンなのだと話す佳乃と良太はいつの間にか野球談義に花が咲く。
お兄ちゃん、と兄を呼ぶ佳乃に自分の妹を重ねて良太は佳乃が年上という気がしない。
「じゃあ、お兄さん弁護士さんなんですか、東京に事務所持ってらっしゃるんですか?」
兄がどうした、兄がこうした、と楽しそうに兄の話をする佳乃に良太がたずねると、鈴木さんが、「良太ちゃん」と首を横に振る。
「お兄ちゃんは六年前に亡くなったの。お兄ちゃんの七回忌だから親の二十三回忌も一緒に法事やっちゃおうってことで」
佳乃は話の続きのようにさらりと言った。
「え……すみません……それじゃ、今は…」
そういえば、兄と親の法要とか、さっきそんなことを言っていたではないか。
良太はつい調子に乗ってうかつな事を口にしたと反省する。
「うん、ボストンに一人暮らし。でも、高広さん相変わらず超クールっていうか、無愛想よねぇ。ふふ。見事にアメリカンな見てくれを裏切ってる」
ひとしきり良太や鈴木さんを相手におしゃべりした佳乃が、宿泊しているホテルを言いおいてオフィスを出て行くと、今度は鈴木さんが彼女についてさらに話してくれた。
榎木一家は工藤の隣に住んでいたのだが、父親が事業に失敗して妻とともに事故死、兄の博也が家を売り、妹の佳乃とともに東京に移り住んだのは工藤が大学の時だった。
工藤がちゆきという恋人や荒木、小田という仲間を得て、工藤にとっては初めて充実した時間を過ごしていた頃のことだ。
翌年、法学部に入学した博也と工藤は学内で再会する。
昔から博也は愛想がいいというほどではなかったが、どちらかというと人を信用しない、誰ともうちとけない雰囲気を強固にしていた。
だが、当時中学三年生の佳乃は兄から工藤との再会を聞き、大学まで工藤を訪ねたり、昔から好きだった工藤の軽井沢の屋敷を訪れて工藤や平造と過ごしたりした。
博也は家を売り、両親の保険で借金を返済して残った金と博也のバイトで自分と佳乃の学費をまかない、生活していた。
がむしゃらに勉強していた博也は大学を卒業すると司法試験に合格、法律事務所に入り弁護士として落ち着き、やがて佳乃はT大医学部に進学、何もかもよい方に向かうかと思われた。
ところが佳乃が横浜の総合病院で医師として活躍していた矢先、兄の博也が事件がらみで刺され、唐突に命を落としたのだ。
「もう、半狂乱でこのオフィスにやってきてね、佳乃さん。帰ってきた工藤さんを見て気を失っちゃって。よく覚えてるわ。ちょうど梅雨に入ったばっかりで寒い雨の日だったわ」
鈴木さんはその時のことを思い出して、悲しそうな顔で続ける。
「司法解剖から戻ってきたお兄さんを工藤さんと平造さんが取り仕切ってお葬式を出したのよ。事業に失敗して迷惑かけたからってご両親の時も簡素だったみたいだけど、親戚なんかはね、お参りしていったのは九州に嫁いでるっていう叔母さん一人だけ。勿論、仲間とか事務所の所長さんとかいたけど、何だか寂しいお葬式だったわね」
しみじみと鈴木さんが語るのに良太は身につまされる思いで耳を傾ける。
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