Blue Moon4

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 先に渡欧しているアスカと秋山を追って工藤はパリに飛んだ。
 その足で、大詰めにきている『大いなる旅人』第二弾の撮影が行われているスペインへと向かうことになっていた。
 最近の良太は下柳と進めているドキュメンタリー番組の詰めで忙しく動いていた。
 そこへ工藤がまた無理難題を残していったのだ。
 小林千雪原作の映画『春の夜の』でメガホンを取ることになっている野元から連絡が入り、音楽を担当するミュージシャンのことで至急野元に会えという。
 クランクインを間近に控えた小林千雪原作の映画『春の夜の』。
 音楽は監督の希望で二組のミュージシャンに依頼していたのだが、ホテルに作業部屋を確保している野元に会いにいくと、監督はどちらの音も気に入らないからと別のミュージシャンを指名してきた。
「えっと、KIRIYAって、あのKIRIYAですか?」
「そうだ」
 野元と知り合いだというKIRIYAこと辰川霧弥は、ニューヨークに拠点を置いて活躍しているビッグアーティストだ。
 たまたま日本に来ているので連絡したのだが、明日なら時間が取れるらしい、都合のいい時間にアポを取って直接会って話を進めてくれと、いとも簡単そうに野元は言うと、とっとと良太を残してホテルのラウンジを去る。
 うそだろ、と思いながらも良太が霧弥に連絡を入れると、霧弥は翌日の朝十一時にホテルに来い、という。
 仕事でなければ、KIRIYAといえば良太でもヒット曲のひとつや二つは口ずさめるし、会えるのも嬉しいと思ったかもしれないが、どうも不機嫌そうな声といい、あまりいい結果を想像できないと思いつつホテルに向かった。
 案の定、ホテルのプライベートルームを訪ねると、見るからに不機嫌そうにソファにふんぞり返り、「それで?」という。
 霧弥は十年ほど前にロックグループ『KIRIYA』を率いてビッグアーティストに名を連ね、もともと霧弥とそのバックバンドの形を取っていたのだが、近年そのプロジェクトを解散し、現在は個人で活動をしている。
 ボーカルを中心にキーボードからギターまでこなす霧弥は、日系二世でピアニストの母と日本人外交官を両親にニューヨークで生まれ、世界各地を転々としつつジュリアード音楽院を出たという経歴の持ち主で、その音楽性は高く評価されているのだが、いかんや本人の性格は好き嫌いの激しい傍若無人、我侭ということは業界でもよく知られた話である。
「ありがちだよな~、恵まれすぎたアーティストってなやつらには特に」
 ぶつぶつ心の中で一人ゴチながら野元監督からの言伝と今回の映画について説明を始めた良太の話の途中で、「あのさ、社長って何でこないわけ?」と霧弥が遮った。
「そんな大事なプロジェクトなのに、下っ端にパシリさせて、そんなんでイイモンできると思ってんだ?」
 明らかに良太を見下した表情で面倒くさげに言う。
 このやろう! と心の中で拳を握るが、そこは仕事、と自分を抑えて良太は言葉を選ぶ。
「申し訳ございません。社長が渡欧中に監督の方からのご依頼があったものですから、私が代理でお伺いした次第で、ただ、監督もお急ぎで何とか霧弥さんのお返事をいただくようにと……」

 


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