その年で、そのガキみたいな性格は何だよっ!
千雪さんが汚らしいだと?
ざけんじゃねえええっ!
ついに良太の堪忍袋の緒はプッツンと切れた。
「そうですか、わかりました」
思った以上に穏やかに口にする。
「大変残念ですが霧弥さんのお言葉そっくり、野元監督と小林先生にお伝えいたします」
なに? という顔で振り返った霧弥はギロっと良太を睨みつける。
「でも、まだ会ったこともない方を汚らしいとか、実際、見た目だけで人を判断しているとそのうちしっぺ返しを食らうかもしれませんよ?」
「何だと?」
「しかも作品を読んだこともないのに、口なんか聞きたくもないというのも、アーティストとしていかがなものでしょうねぇ?」
「きさま…」
何か言いかけた霧弥の言葉を無視して「では、お忙しいところ、お邪魔いたしました。失礼いたします」と頭をさげ、ドアを閉める前に思い切り霧弥に聞こえるように、「ガキじゃあるまいし」とボソッと口にする。
閉まったドアの向こうで何か喚いている気がしたが、少々溜飲が下がった思いで、良太はエレベーターに乗り込んだ。
「どわああああ! どうしよう!」
一人なのを幸いに良太が喚いたのは箱の中だ。
霧弥との交渉は決裂もいいところである。
うっわーーーー! 野元監督に何て言えばいいんだ! 工藤に何て言い訳……できねーよなーーー
今頃まだ飛行機の中だろう工藤の眉を顰めた顔を頭に思い浮かべる。
啖呵を切ってすっきりして出てきたはいいが、大事な大きなプロジェクトにとんでもないトラブルを起こしたのではと、今更ながらに良太はため息をつくがあとの祭りというやつである。
「ガキじゃあるまいし、って、俺んこと???」
ああああ~。
工藤に雷を落とされるのは仕方がないとして、そもそも気難しい野元監督がもしこのことで降りるとか言い出したらどうしよう。
完璧非は俺にありってことじゃん。ひいてはうちの会社の責任ってことじゃん。
ううううう、まいったなーーーー。
良太は下柳との打ち合わせに向かう車の中でひとり悶々とハンドルを切った。
「聞いてるかぁ? 良太ちゃん」
MBCテレビ近くの喫茶店の奥の席を陣取って、テーブルの隅にスケジュール確認用のタブレットを置き、良太は遅い昼飯を取りながら下柳と詰めの話をしているところだった。
「あ、ええ、はい……」
下柳に顔を覗き込まれてはっとする。
「何だよ、さては何かまたやらかしな? いいから話してみな。何だったら俺が工藤にとりなしてやるからよ」
「い、いや、平気です。たいしたことじゃ…」
あるのだが。
話してどうにかなるものならな。
「それより、撮影のスケジュールですけど」
「おう、そうそれなんだが、ほれ、こないだ言ってた人間をひとり、ところどころに置いてみるって良太ちゃんのプラン、スタッフにちらっと話したらいいんじゃねーってことでさー」
「じゃあ、ヤギさんが?」
「だぁから、誰が俺なんぞ見てえかっつうの」
「でも、俺だってダメですよ」
来年年明け早々にMBCテレビで放映予定のドキュメンタリー番組の撮影は仮タイトルを『知床』としてプロジェクトが動き始めている。
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