まあ………しばらくは工藤とは、ぜーーーーってぇ、金輪際、仕事以外口なんか聞いてやらない。
必要以上にハンドルを握り締めた良太は、ぐんとアクセルを踏んだ。
「ちょっと、工藤さん、どういうこと?」
良太が出て行くと、ようやく電話を終えた工藤に、アスカが詰め寄る。
「何がだ」
「しらばっくれないでよ、ぬけぬけとお持ち帰りしちゃってさ」
「言っとくが、あいつとは仕事のつきあいだけだ」
「白々し~~~~~~い」
工藤の苦々しい顔がますます険しくなる。
今までのつけが回ってきたというべきか、ついこないだ佳乃がアメリカに戻ったばかりで今度はルクレツィアとくれば、天地神明に誓って潔白だ、と工藤がいまさら言ったところで、誰も信じないだろう。
いや、誰も信じなくてもいいのだが、良太が信じないだろうことが一番の問題なのだ。
ルクレツィアはいい気なもので、仕事にかこつけて日本をたっぷり楽しむべく、休暇をとってしばらく居座るつもりらしい。
ったく、冗談じゃない。
「出かけてくる」
「早く何とかしてよね、工藤さん。タダでさえ暑苦しいのに、この重~い空気」
アスカのストレートな嫌味に送られて、工藤は渋面を隠そうともせずオフィスを出た。
七月に入ったばかりというのに、全く例年にも増して暑い。
その上アスカや小笠原にまで痛くもない腹を探られて、それこそ気が重い。
「ルクレツィアのやつ、とにかくさっさと帰ってくれ」
工藤としては今のところなすすべもなく、車のハンドルを切った。
一方、工藤も良太も出払ったオフィスでは、小笠原やアスカと陽気なミラノ女性は撮影の話で盛り上がり、そのまま夜の街へと繰り出した。
秋山も無事NYの仕事が終わって日本に戻ってきてほっとしたせいか、いつもより饒舌にルクレツィアと話し込んでいる。
「にしたって、ったく、あのおっさんときた日には! こないだは幼馴染みで今度は仕事のつきあい? そーんな言い訳通じると思ってんの!」
バーのカウンターではアスカが独り言にしては小さくない声で喚いていた。
「なあ」
隣に座った小笠原が声をかけてくる。
「お前さ、知ってんの?」
「何をよ?」
「いや、何って、その」
「早く何とかしてよね、工藤さん。タダでさえ暑苦しいのに、この重―い空気」
さっき、工藤に向かってアスカが口にした言葉が小笠原としては気にかかっていた。
「早く何とかしろって、言ってただろ? あれって……ひょっとして、工藤と、その……」
「言っとくけど、あたしじゃないわよ」
「じゃ、やっぱ、あいつか?」
恐る恐る聞くと、「良太よ。今頃気づいたの?」ときっぱり返される。
「こんなに長く一緒にいて、あんたくらいよ、気づかないなんて」
「ウソッ?! じゃ、みんな知って……」
「良太のご機嫌損ねると、あの会社ガタガタなのよ、もう! なのに、工藤のやつ!」
「なんだ、そっかよ。ちぇ、工藤なんか、とっとと見切ってやればいいんだ、良太も」
「ばかね、あの従順なワンコみたいなコが、そうそう簡単に切れるわけないでしょ!」
アスカにつられて小笠原は複雑な気持ちで酒をあおった。
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