ACT 4
赤坂にある老舗のホテルでKBC主催の創立記念番組成功を祝してのパーティが行われたのは、この夏一番という蒸し暑い週末の夜だった。
メインスポンサー東洋商事社長の綾小路紫紀をはじめ、協力を仰いだミラノ放送局の関係者、制作関係者、もちろん出演者や青山プロダクションからは社長の工藤と良太までもが出席を余儀なくされた。
小笠原やアスカはおまけのように工藤らにくっついてきていた。
ついにこのパーティで顔を合わせるまで一週間あまり、工藤は良太に故意に避けまくられ、ほとんど言葉もかわしていなかった。
何度も良太の部屋をノックしたし、電話も入れてみたが、仕事以外は取り合おうとしない良太に、工藤もいよいよ痺れを切らしていた。
「お前、いい加減にしろよな」
「何がです? 別に俺のことはお気遣いなく」
今もそんな調子で埒が明かない。
工藤の堪忍袋の尾が切れたのは、パーティも盛り上がり始めた頃。
「紫紀さん、ちょっと」
夫人の小夜子を伴って現れた紫紀に声をかけると、工藤は耳打ちした。
「実はこれから緊急に良太と打ち合わせが必要になりまして」
「おや、それなら、上を使うといいですよ。プライベートルームがあるのでどうぞ」
「それは助かります、お開きになる前には戻って参りますので」
こそこそと紫紀と話している工藤を横目で見ながら、良太は折を見てとっととパーティを抜け出そうと思っていた。
それにしても、紫紀と談笑している工藤は、渋いシャドウストライプのスーツなんかきっちり着込んでいるのにやたら毅然としていて、妙にカッコいい。
ブロンド美人なんかあからさまなセックスアピールをしかけてきたりするし、にこりともしないくせに、いつものごとく周りの女性たちから秋波を送られている。
そりゃまあ、つるしのスーツなんかきたら肩があまるような俺とは違って、どんなスーツ着てもビシバシと似合ってくださるしさ。
ちぇ、額に一筋垂れた髪なんかがセクシーだったりするのが、女性の方々にはたまんないってとこかな?
フン! にこりともしないくせに、裏ではうまいことやってんだろ!
「わっと…」
またしても自虐モードで、工藤を眺めていた良太は、傍を通った人に軽くぶつかられて、危うく手元のグラスを落としそうになって持ち直した。
「お、俺は別にカッコいいとか、みとれてるわけじゃないって! 当分、口なんか聞いてやらないんだからな」
良太の決意は今までになく強固なつもりだった。
「良太、ちょっとこい」
紫紀と話していた工藤が良太を呼んだ。
「何でしょうか?」
目一杯仕事モードで返事をして工藤の方へ歩み寄る。
「まあ、良太ちゃん可愛いわね、今日のスーツの色、とてもお似合いだわ」
そんな良太に、思わずガクッとなりそうな天然な言葉をかけてきたのは、ゆるくカールした豪華な黒髪に黒のドレスも艶やかながら気品に溢れた美女、小夜子だった。
紫紀の奥方であり、小林千雪の従姉でもある小夜子が呼ぶ「良太ちゃん」は、業界人特有の馴れ合いの「ちゃん」付けとはニュアンスがちょっと違う。
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