夏が来る11

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「我々、経験の浅い部員たちを弱小部ながら今日まで導いてくださった前部長瀬戸川さんといらっしゃるだけで我々のモチベーションを上げてくださった三島さん、三年生のお二人の登場です。大きな拍手、お願いいたします」
 ステージに二人が並び、それぞれコメントを求められると、「うん! 音楽部は永遠で―す!」と寛斗が拳を高々と上げた。
 途端笑いとともに拍手が大きくなった。
「去年から音楽部の顧問をしてくださっている響先生、今日は美味しいお茶を振舞ってくださった元気さん、それにこの春から母校に舞い戻っていらした井原先生、ともに十年前の音楽部員、部長さんでした。これも何かのご縁なのでしょう、お陰様で弱小音楽部が県コンクール三位入賞の栄誉もいただきました」
 瀬戸川の声が観客の後ろまで凛として届いた。
「そして各先輩のすばらしい演奏を今日体感できたことは私たち音楽部の特権です! 先輩方、次期音楽部のこともぜひよろしくお願いいたします。今日のために駆り出された東さん、紀子さん、豪さん、田坂さん、そして場所を提供してくださった三島家の皆様には本当に感謝申し上げます。部員のご家族の皆様も今日は長時間お付き合いいただきありがとうございました。最後に私たちの演奏を聞いてください」
 拍手喝さいを浴びてステージを降りる瀬戸川を見ながら、観客席の後ろに立っていた響は、「やっぱ瀬戸川って、優等生の鏡って感じ。しかも有言実行、気が利くし正義感半端ないし」などと隣に立つ井原にこそっと言った。
「寛斗にはもったいないよな」
 井原は頷いた。
「そういえば……………あれ、いない」
 井原は周りを見回して怪訝そうな顔をした。
「誰がいないんだよ?」
「いや、絶対あれって………」
「ああ?」
 響は眉を顰めて井原を見た。
「うん、まあ後で」
 そういうと、井原はお茶の片づけをしている元気のところに行ってしまった。
「何だよ」
 小首を傾げた響だが、寛斗の演奏が始まったので、ステージに顔を向けた。
 ショパンの『華麗なる大ポロネーズ』だ。
 一度寛斗のレッスンを見てやった響だが、下手くそなりに寛斗のポロネーズに仕上がっていて感慨深かった。
 一、二度音が飛んだが、そんなことはどうでも両親は「あの寛斗が」と二人で感激して涙を拭いた。
 最後に寛斗がそのままピアノに座り直し、瀬戸川のチェロで『G線上のアリア』が始まった。
 瀬戸川のチェロと寛斗のピアノ、二人の息の合った暖かく美しい旋律が流れだす。
 二人が付き合ってなくても普通にいい演奏にはなっただろうが、互いを思い合える二人の演奏はより互いを高めあえるものになったのではと、響はふと思った。
 演奏が終わるとみんながスマホを手に撮影会と化した。
 最後に音楽部とOB三名に助っ人らも全員入って豪が締めくくりの撮影をしてお開きになった時はもう夜の七時を回っていた。

 


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