「なんか、ほんとに高校の追いコンかよ、ってステージだったよな。なあ、元気さんって何者? 絶対どっかでみたことあるんだよな」
田坂に聞かれて豪は「『伽藍』のマスター?」などとすっとぼける。
いろいろなステージを撮影したりするプロなのだが、今回いきなり豪に東京から連れてこられて、一年生の演奏はまあ微笑ましく見ていたものの、途中、響の演奏から目を見張った。
「それにあの人、絶対プロだよな? ピアニストだろ、響さんって」
「うーん」
その問いにも豪はごまかしの返事をする。
「そうだよ、だって、あれ、さっきチラッといただろ? あの人、絶対Y新聞の記者だ」
何度目かの絶対を繰り返した田坂に、今度は豪が向き直る。
「記者? ってなんだよ?」
「いやだから、ベージュのスーツの、ボブヘアの美人、いただろ? サングラスしてた」
正直撮影に集中していた豪はそんな人物がいたことも思い出せない。
だが、田坂の記者という言葉が引っ掛かった。
そんな人物がいたとしても誰かの家族だろうくらいしか考えていなかった。
豪は立ち上がってカメラを持ってきた。
「あ、これか?」
客席を写した時に一瞬入っていたベージュのスーツの女性。
「ああ、そうそう、やっぱY新聞の、確か向井聖子」
田坂はモニターに目をやって言った。
「やっぱ向井さん来てた?」
その名前が耳に入って、井原が歩み寄った。
「知ってるのか? 記者だって」
豪は井原を見た。
「ああ、ステージからチラッとだが見た」
井原は言いながら元気を見やる。
「一学年上の才媛で、確か、元気の元カノ」
それを聞くと豪は眼を眇めて瀬戸川や響と話している元気を見た。
豪の視線に気づいたかのように元気が振り返った。
「何だよ?」
妙に険しい目で豪が見るので、元気が聞いた。
「向井聖子」
井原が言った。
「え?」
「彼女、来てたらしい」
元気は井原の言葉に怪訝な顔をした。
「うそ、向井さんが? ここに?」
「示し合わせてたんじゃないのか?」
「卒業してから会ってもないぞ」
井原に探るような言い方をされて元気は眉を顰める。
「その人って」
言いかけた豪の言葉を引き取るように「文芸部長でH大行った、いっこ上の先輩で、元気の元カノな」と井原がにやりと笑う。
「何で向井さん、音楽部の誰かの家族とか?」
まだ睨むように元気を見る豪を無視して、元気は言った。
「向井とか、音楽部にはいないぞ」
元気らの妙な雰囲気に気づいて、響が言った。
「響さん、クラス違った? 向井聖子」
「ああ、文芸部の? なんかの時にインタビューとかされたよな?」
井原に聞かれて響は答えたが、「クラス違ったし、よく知らないけど」と付け加える。
「Y新聞の記者らしいぞ、彼女」
井原の言葉に、元気は少し気色ばむ。
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