「そう、響さんと同じ学年だっけ? あの人楽器屋の息子のくせにサッカー三昧で、大学も経済だったけど、楽器はいろいろ弾けるのよ」
「ああ、そういえば」
学祭の時にやはり井原にシンセサイザーを貸していたの人間がいたのを、響も思い出した。
「あの人、密かに江藤先生フリークでさ」
「そういうやつ、多いみたいだぜ」
東が笑った。
上田のことはかすかに記憶にあるものの、響は同じクラスになったことがない人間のことは今一つ定かでない。
「じゃあ、二人に好きな曲いくつか聞いて、プラスそれぞれ何曲かやって、あとはリクエスト」
「リクエスト? 知らない曲とか俺、無理だぞ」
響が井原に反論する。
「大丈夫。俺が進行するから、そこんとこは任せて」
井原が大きく頷くと、響も「わかった」と言わざるを得ない。
何となく井原の言うことなら間違いがないように思ってしまう。
「六月十二日だっけ? 俺もその日は空けておく」
豪が言った。
「おい、無理するなよ? 自分の仕事優先しろよ」
元気が念を押す。
「大丈夫だって。それより、俺はさっきの、その元気の元カノのことが気になる」
まともに言う豪に、「おい、だから高校時代の話だぞ?」と元気は言い返した。
「そりゃ、気になるよな、あんな美人」
「ヤケボックイに火とか、な?」
揶揄する井原と東に「そうじゃなくて」と豪は語気を強めた。
「Y新聞の記者ってやつだよ」
すると元気も腕組みをして、「雑誌社じゃなくて新聞社だろう。それに部署が何かもわからないし」と言う。
「前にも雑誌記者ってのが来たって言ったじゃないか」
豪の言う記者は、ただ元気のファンだったというだけで、元気のことを記事にしようというつもりはなかったようだったのだが。
「元気と『GENKI』との関連を面白おかしく記事にされたりするのは避けたい」
豪は真面目な顔で言った。
ただでさえ、『GENKI』のメンバーがこの店にちょくちょく立ち寄ることがあるし、最近『GENKI』のライブに元気が、みっちゃんの言う非常勤扱いで登場しているのだ。
古いファンなら既に元気だとわかっているし、そのことがマスコミに漏れたら、元気もこんな平和な生活が続けられるかどうかわからない。
豪はそれを危惧していた。
「みっちゃん、また近々来るって言ってただろ?」
豪は元気を見た。
元気はそれには答えなかったが、確かに、音楽部の家族でもなく、関係者でもなければ、なぜ向井が音楽部の追いコンなどに現れたのかが気にはなっていた。
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