夏が来る38

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「ええ。何かにつけて響ちゃんの写真とか、今日はどうしたこうしたって、メールやお手紙でいつも送ってくださって、だから響ちゃんが大学に行くまではずっと一緒にいるような気がしていたわ」
 美晴は懐かしそうに言った。
「あら、そろそろお昼、行きましょう。予約してあるの」
 笑いながら立ち上がると、「オムライスじゃなくてお肉だけどいいかしら?」と美晴は響の顔を見た。
「今日のところはお肉でいいです」
 響も笑顔を返した。
「フフ、そうなの、片瀬先生とお祖父様、ご近所に住んでて幼い頃からのご友人で、中学まで一緒だったんですって」
 食事の間も美晴はここぞとばかりに色々と話してくれた。
「でも、片瀬先生は東京の方ですよね?」
「お祖父様のお父様は東京で小さな貿易会社をやってらしたのよ。でもお兄様が亡くなられて、ご家族もいらっしゃらなかったから、お祖父様のお父様はこちらに戻ってらして、会社もこちらに移されたそうよ。お祖父様は大学を出て東京の出版社にお勤めになってて、そのうち翻訳の仕事を個人でされるようになったそうよ」
「そうなんですか」
 それを聞いて、祖父が垢ぬけた雰囲気を持っていた理由がわかった気がした。
「大学の定期コンサートに、片瀬先生がたまたま東京にきてらしたお祖父様を誘って楽屋に来て下さったの。その時、片瀬先生がお祖父様とお祖父様を迎えに来ていた当時大学生だった慧さんに私を紹介して下さったのよ」
 響も初めて聞く話だ。
「慧さんたら、最初からあの性格で、堅い人の典型みたいな感じだったわ」
 コロコロ笑う美晴は、まるで少女が初恋を語るように楽し気にそう話す。
「ほら、茶目っ気のあるお祖父様とはまるで正反対でしょ? でも付き合ううちに、すごく社会正義を大事にする、嘘のない人だってわかってね。私は大学を卒業してピアノを教えたりしてたんだけど、慧さんが銀行のこっちの支店に転勤になることが決まったので、結婚することになったの」
 それからしばし、二人は食べることに専念した。
 デザートになったところで、また美晴が口を開いた。
「言い訳にしかならないけど、私が甘かったのね。こちらでもピアノを教えたりできればなんて。それと、結婚する少し前に、片瀬先生から留学のお話を頂いたんだけど、私は結婚をとったのね。それからあなたが生まれて、響ちゃんとピアノでお稽古している時はとても幸せだったわ」
 言葉の裏に、やはり祖母との軋轢があっただろうことを思い、響は眉を顰めた。
「お義母様とはどうしても相容れなくて、ご病気もあったから仕方がなかったんだけど、私が折れても、お義母様の叱責はやまなくて、このままだと家庭がダメになるような気がして、慧さんと話して私が家をでることになったのよ」
 あくまでも美晴は祖母のことを悪くは言わなかった。
 だから響もクソババアと言いそうになるのを必死で抑えた。

 


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