「ロンティボーの優勝の時、私も会場にいたのよ」
いきなり話題が変わったと思ったら、美晴の言葉に響は驚いた。
「ウソ! 来てくれてたの?」
「フフ。すごく遅くなったけど優勝おめでとう!」
「あ、りがとう……」
「ショパンコンクールもね、行ってたのよ。でも棄権で、それも怪我をして入院とか聞いた時は、生きた心地がしなかったわ。一緒にいた片瀬先生が手を尽くして調べてくださって、病院に駆け付けた時は手術して眠ってるって言われて」
またしても驚いたなんてものではない。
「なんで、声かけてくれなかったの?」
響は今度はちょっと美晴に抗議した。
「経過はいいみたいだったし、とにかく無事でいてくれただけで。それにほら、きれいな女の子がついててくれたでしょ?」
そうだった。
ヨハンのバカが響を突き落とすのを見ていたヘンリエッタがずっとついていてくれたのだ。
「なんか、怪我してから、コンクールとか嫌になって、ヨーロッパ中演奏旅行みたいなことしてた」
詳しいことを言うつもりはないが、井原に言ったようにどさ周りでここ何年かを過ごしてきた。
さほど収入にもならない、小さな町での演奏会とか、田舎の交響楽団との演奏会など、無名な演奏家とのジョイントを好んでやっていた。
クラウスと一緒にやったのが割と名の知れた交響楽団で、どうしてもっとメジャーな演奏家と一緒にやらないのかとクラウスにもよく言われた。
けれど、なんだろう、メジャーな華やかさを見ると鼻につくような気がして、避けてきた。
ヘンリエッタは今、ベルリンでは名の知れたピアニストとして活躍しているようだ。
「片瀬先生がおっしゃってたわ。今は響ちゃんが表現者としての大切なものをたくさん吸収している時なんだって」
響は驚いて顔を上げた。
「響ちゃんが表現者としての自分を見つけたら、きっとまた表舞台に戻ってくるって、最後まであなたのことを心配してらした」
「ひょっとして片瀬先生が亡くなる時、お母さん会ったの?」
「ええ、ニューヨークでずっとよくしていただいたわ」
「俺、先生が亡くなったこともお祖父さんから聞いてようやく知ったくらいで」
響は唇を噛んだ。
すごく世話になったのに、響のことを信じてくれた先生だったのに。
「いいのよ。片瀬先生が信じてくださった響ちゃんだもの。これからでしょ?」
美晴にじっと見つめられて、響は俯いた。
「でも、俺、ほんとに流されるばっかで。お祖父さんのお葬式に来たのに、田村先生に勧められて高校の講師になったり」
「あら、すごく生き生きしてて、ピアノ、すごくよかったわよ! 片瀬先生がいらしたら感激なさったと思うわ。追いコンの演奏! ソロもよかったけど、ヴィヴァルディがよかったわ、元気さんのギターとすごく息が合って」
「え、どうして、あ、ひょっとして動画、見たの?」
響は美晴にそんな風に言われてすごく嬉しくなった。
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