夏が来る4

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「とにかくそのこともあるし、寛斗、明日か明後日の放課後、ご挨拶に伺いますってご両親に伝えて、いつがいいか聞いといて」
「Copy That!」
 威勢よく寛斗が返事をした時、「おーい、寛斗!」と窓の外から呼ぶ声がした。
「いっけね、片付け、残ってた」
 慌てて音楽室を飛び出していく寛斗の背中を見送って、「あいつ、ちっとも変ってなくない? 瀬戸川と付き合ったりすれば少しはまともになると思ってたけど」と響は言った。
「まあ、いいんですよ。あのいい加減さがあいつだし」
「達観してんなあ」
 響はあらためて瀬戸川をできた子だと思う。
「サッカー部も引退だし、これから身を入れて勉強するにしても、実際どうなの? 大学」
 老婆心ながら響は心配していた。
 高校生カップルが別れる原因でよくあるのは、女子は進学しても男子の方が浪人で距離ができるというパターンだ。
「もともと浪人覚悟みたいだし、受かったら儲けものくらいな感じです」
「東京の夏期講習一緒に行くって言ったっけ?」
「ええ、講習でどのくらい伸びるか、ってとこでしょうか」
 瀬戸川は冷静な分析を口にする。
「瀬戸川は瀬戸川でいくら合格確実とか言われても、人の勉強を見る余裕はないしなあ」
「それはもう、本人次第だから」
 そう言いながらも音楽部での部長としての活動を見てきた響も、そのほうっておけない性格がわかっているだけに、瀬戸川のことも心配になる。
 確かに本人次第なのだが。
「大丈夫です。私たちお互いに楽観主義だし」
「そっか」
 二人でいた方が学力を高めあえるということもあるだろう。
「俺、三年の時なんて、てんで周りをみる余裕なんかなかったよ」
 響は自分の受験の頃を思い起こしながら言った。
「だって、音大受験とか、ただ学力つければいいってもんじゃないし、私ら俗人には未知の世界です」
 いや、瀬戸川が本気を出せば、音大もクリアできるよ、とはさすがに響きも口にはしない。
「響さん、帰れる?」
 ちょうど音楽室を施錠したところで、天文部の方に行ってきたらしい井原が向こうからやってきた。
「ああ、うん」
 時刻は既に五時半を回っていた。
 今日は六時半からレッスンの生徒が、体調が悪いので休むという連絡を昨夜もらったため、井原にどこかで食べて帰ろうと誘われていた。
「最近できたっていうイタリアンの店、行ってみようよ」
「へえ、どこに?」
 そんな二人の会話を後ろで聞いていた瀬戸川がクスクス笑う。
「え、何?」
 二人が振り返ると瀬戸川がまた笑う。
「だって、お二人とも私らと同じなんだもん。ちなみにそのイタリアン、先週末寛斗と行ってきました」
「う、先越されたかあ。で、美味かった?」
 即座に井原が聞き返す。

 


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