夏が来る41

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「俺、オヤジとはそりが合わないし、そのことで文句言うんなら家を出ようと思ってたんだけど」
 響は美晴に言った。
「え? せっかく戻ってきたのに、慧さん、ちゃんと響ちゃんがいくらか入れてる、あいつも大人になったって喜んでたわよ?」
 今度は三人ともが美晴を見つめた。
「喜んでるとは全然思えないけど」
 響が言った。
「ああ、慧さんっていつも仏頂面でしょ? でも微妙に違うのよ、あれでも」
 美晴はフフフと笑った。
 井原と元気もお茶をごちそうになり、何だか、美晴に圧倒されるばかりで過ぎた数時間ほどだった。
「今夜は久しぶりに慧さんとご飯食べる約束になってるの」
 美晴のこの発言はさらに三人は呆気にとられた。
「たまにね、慧さん、東京に出てきた時とか会ってるのよ」
 決して二人が喧嘩別れをしたわけではないと美晴が言っていたのは、本当のことだったのかと、響はあらためて思い知った。
「元気くんのお店もお邪魔するわね」
 美晴はにこやかに三人を送り出した。
「なんか、予想外」
 井原の車でホテルを後にして数分後、井原がぽつりと言った。
「響さんのお母さん、できた人だよな」
 元気も言った。
「俺一人で、怒ってて、バカみたいじゃん」
 助手席で響はちょっとムッとしている。
「まあ、怒りとか、憎しみとかって負の感情は、よほどじゃないと持続しないもんだし、そういうのは逆に自分を追い詰めるってことやね」
 元気が言うと、「また俊より臭いこと言う」と井原が笑う。
「うっさいよ。それよか、江藤先生のウエディングパーティのこと、とっとと決めようぜ」
 これから響を家に連れて行こうと思っていた井原だが、元気にしっかと言われて、仕方なく頷いた。

 
 

 江藤先生と秀喜のウエディングパーティが元気の店で賑やかに行われたのは六月最終週の土曜日、明け方まで降っていた雨がやんで梅雨の合間にしばしの青空が広がった午後のことだった。
 店に入りきらずに立っている者もいるほどで、あらかじめ参加を募った時にはもう満員御礼になっていた。
 響の同級生だがクラスも違いあまり話したことがなかった上田楽器の上田がアップライトピアノを貸してくれて、店内に何とか収まったのは昼前ギリギリのことだった。
 この日に合わせてしっかり戻ってきた豪は、ひたすら撮影係に徹していた。
 年一回しかライブをやらない昇り龍もこの日ばかりは演奏のトップを飾った。
 料理はバイキング形式で、やはり井原や元気の同級生がやっているレストランの跡継ぎが引っ張り込まれ、あまり来ないだろうと高をくくっていた舌の肥えた年配の人もちらほらいたので、何とか面目躍如となった。
 受験生というのに瀬戸川と寛斗が、追いコンで演奏した『G線上のアリア』を、志田が定番のメンデルスゾーン『結婚行進曲』を演奏すれば、井原は江藤先生リクエストの、ルイアームストロング『What a Wonderful World』を歌い、大いに拍手喝さいを受けた。

 


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