瀬戸川医院とはもちろん医者仲間としてよく知った仲だが、今日は音楽部員の保護者として琴美の両親もやってくるというので、寛斗の両親は朝からそわそわしていた。
「やあね、お母さんもお父さんも、結婚が決まったわけでもないのに」
寛斗のすぐ上の姉朱莉が呆れた顔で二人を見た。
「だって、わからないわよ。お母さんだって、お父さんと会ったの大学に入ってすぐだったし」
朱莉は母の言葉にもう言い返すこともしなかった。
両親はそれぞれ長男と長女として真面目でいい子で育った、加えて天然が入っているある意味似た者同士で、特に父親は人が好過ぎてちょこちょこ騙されて貸した金が返ってこなかったりとか、友達に大盤振る舞いさせられて喜んでいるようなタイプで、しっかり者の勝子がいなければ経営に響くような目にあいそうになったこともある。
そんな両親を反面教師として、上二人の娘たちは気丈に育った。
お陰で末の息子寛斗は自由気ままに育ち過ぎて、姉にはっぱをかけられて医大を目指すことになったものの、両親は落ちたら事務方でもやらせればいいしとお気楽に考えていた。
「まあ、でも、おかげで寛斗の成績が上がったってのは、儲けものよね」
そういう朱莉の夫は獣医なので、どう転んでも医者一家と言えるかもしれない。
「立派な会場を提供していただいて、ほんとにありがとうございます」
そして医学部を目指しているだけではない、知性が滲み出ている風な瀬戸川は、きりりと寛斗の両親に挨拶をし、顧問である響やまだ戸惑いの多い新部長の志田、それにOBとして参加することになっている井原と細かく打ち合わせをしながら、寛斗をはじめとする部員たちにてきぱきと指示を出している。
結局今日の追いコンミニコンサートには、部員全員、家族の誰かしらが参加することになり、リビングからもともとあったテーブルやソファを移動させて、椅子が並べられ、徐々にコンサート会場らしく整えられていく。
置かれているグランドピアノを中心に楽器や器材も運び込まれ、志田がマイクのテストをした。
ただし、OBとして一緒にセッションをするからと響が井原に言われたのは昨日元気の店でのことだった。
「はあ?」
響は井原を振り返った。
「お前もな」
唐突に言われてカウンターの中の元気も、「はあ?」と井原に怪訝な顔を向けた。
「俺は音楽部じゃないぞ」
「学祭で昔やったセッション、『サマータイム』とかならすぐにもいけるだろ」
元気の反論にも答えず井原は続けた。
「こいつ人の言うこと、聞いちゃいない」
頭を振りながら元気は響に向かって言った。
響は苦笑するしかなかった。
だが響の脳裏に、昔井原に半強制的に舞台に引っ張り上げられた学祭の高揚が蘇った。
ギターの元気、電子ピアノを響、井原がボーカルというセッションはそれまでにない盛り上がりを見せた。
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