花のふる日は20

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    ACT 5
   
 
 中軽井沢にある老舗の軽井沢グランドホテルでは、時ならぬ雷の襲来に従業員までがピリピリしていた。
 その日はスイートルームと中庭を借り切って朝からドラマのロケが行われていた。
 雷の発信源はその辺りにあった。
 人気女優やらアイドルタレント上がりの人気俳優やらが来ているという情報をどこかで知ったファンなどもチラホラ集まっていたのだが、目当てのアイドル俳優が鬼の形相の大きな男に頭ごなしに怒鳴りつけられるところを見て、ブーブー文句を言い始めたために、「あの連中を締め出せ。うるさい」との鬼の一言でADによってホテルから追い出された。
「これ以上そのヘボ芝居を俺にみせるつもりなら、とっとと尻尾を巻いて東京に帰れ!」
 本日何度目かの雷が落ちたところで、ディレクターが休憩を提案した。
 さすがにあちらこちらで、極端な雷に対する文句がボソボソと囁かれている。
「ちょっと、高広、いい加減にしなさいよね、高広が怒鳴りまくってるから、みんなが萎縮しちゃって、ヘボが益々ヘボになるじゃないの!」
 もしこうして唯一、工藤にものを言える人間がいなければ、ロケは遅々として進まなかっただろう。
「ほう? 俺が黙っていたら、ヘボがまともになるとでも言うのか?」
「少なくともこれ以上ヘボにならないって言ってるのよ! これじゃちっとも先に進まないじゃない!」
 もっとも、工藤のように雷を落とすわけではないが、その歯に衣着せぬもの言いの内容は、工藤の言っていることと実は大差ない。
 山内ひとみ、このドラマの座長を務める今、乗りに乗っている人気実力派俳優である。
 つい一年ほど前には工藤と付き合っていることが報道され、その後、「ワンクールで振ってやったのよ」という決め台詞で工藤と別れたのは業界でも記憶に新しい。
 だが別れたとはいえその後も仕事ではよく顔を合わせ、周りの気遣いも何のその、ああいえばこういう、工藤とただ一人互角に対峙できる貴重な人材なのだ。
 だから、工藤に到底たちうちできないディレクターやタレントも困った時はまず彼女にお伺いを立てる。
 しかし竹を割ったような気風のひとみにはゴマすりは通用しない。
 そこのところをよく心得ておかないと、下手をすると工藤に怒鳴られるよりまずいことになりかねない。
「このあたりは桜なんかまだでしょ? 何をイラついているのよ!」
「るせぇんだよ! ちょっと頭冷やしてくる」
 勝気で遠慮がなく仕事ができる女。
 工藤はそんな彼女を嫌いではない。
 だがこうして、妙に人の思いを読み取ることに長けているところが、さすがの工藤も苦手なのだ。
「振られた」のも実は未だに過去に縛られている情けなさを知られたからだ。
「鬼の工藤が、聞いて呆れるわ。情けないったら、勝手にひとりでセンチメンタルしてなさい」
 ちょうど今頃、例によって荒れていた頃、ひとみはそう言って工藤を放り出した。
「振られた」後も何だかだで一緒に飲みに行くことが多いし、彼女の気風のよさ故にこうして悪友のような付き合いをしていられるのだが。
「クソッ!」
 全く情けないことこの上ない。
 工藤はそんな自分に苛立ちながら、煙草を一本吸い終えると現場に戻る。

 


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