確かに、寄ってくる女たちと適当に遊んだことがないとはいえないわけで、周りのモテない面々からしてみれば、何を言ってるんだこの野郎とでも言われそうだが、実際京助はこれまで好きになった相手と恋が成就したことはなかった。
お前は直球過ぎる、何でそう愚直なんだ、と、兄の紫紀にはしょっちゅうからかわれるのだが、京助の本当のところをわかっているのは、他にはほんの一握りの仲間だけだろう。
手放したくないと思えば思うほど、相手は遠のいていった。
だが今度は、千雪だけは、どうしても手放したくはないのだ。
千雪が実家に帰ったと聞いた時、京助は少なからず動揺した。
警察を出てから工藤の車に乗り込んだ千雪を、はらわたが煮えくり返るような思いで見送った京助だが、それでもまだ取り戻せると思えた。
けれども京都は違うのだ。
京都にはあの男がいる。
ずっと、千雪の心の底にはあの男がいるのだ。
千雪はおそらく俺が気づいているとは思ってはいないだろうが。
あれは三年ほど前の、千雪の父親の葬儀でのことだ。
小林教授の危篤を知らされた千雪を時間的に早く着く新幹線で送っていった。
くも膜下出血で倒れ、千雪が病院に駆けつけた時は、少し意識が戻ったような気配をみせたが、結局亡くなった。
自分にとっても大切な恩師である小林教授の死は残念でならなかった。
千雪はずっと気丈に振舞っていた。
菩提寺で行われた通夜の時もずっと唇をかみ締めるように、悲しみに耐えていた。
通夜には千雪の幼馴染やら中学高校のクラスメイトやらもやってきて、千雪を取り囲んでいた。
江美子にもその時会っていたはずだと、京助は記憶を辿る。
その男が現れたのは、通夜も終わり、あらかた人々が帰っていった頃だった。
息せき切ってやってきた男は、千雪を見つけて呼んだ。
「千雪」
千雪もはじかれたように顔を上げた。
「研二」
名前を口にした途端、千雪の目からいきなりボロボロと涙がこぼれた。
それからしばらく千雪の頭を抱える男の胸で千雪は嗚咽をもらした。
数人のクラスメイトや幼馴染は二人をただ見守っていた。
京助は自分がその輪の外にいるのを感じた。
いや、その時千雪がほしかったのはその男の手なのだと、思い知った。
そして、どうしてその手は自分ではないのだと、恐ろしく男を嫉妬し、あらためて千雪を好きなのだと、思い知った。
翌日そっと京都を去ったのは、その場にはもう自分の出る幕はなく、千雪が落ち着けるところにいるのが一番いいと考えたからだ。
千雪が東京に戻ってきた時、京助は自分が千雪の一番いたい場所になりたいと、少しずつでも距離を縮めていこうと思っていた。
初めはそう思っていたのだが、結局強引に千雪を手に入れてしまった。
いや、手に入れたと思っていたのは俺だけか。
結局心まで手に入れることはできなかったのだ。
千雪は、俺を振り切るきっかけを待っていたのかもしれない。
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