「そうだぞ、千雪、何も遠慮することはない。ここはお前のうちも同然なんだからな」
伯父も大きく頷いた。
京助と距離を置くいい機会にもなるだろう。
だが、その反面、今度はまた小夜子らに依存することになる可能性大だ。
いつまでたってもそれでは成長がない。
やはり、ここはどこか適当なアパートを見つけて引越しをするしかないか。
そんなことを千雪が考えていた時、玄関のチャイムが鳴った。
「今頃、どなたかしら?」
夜の九時を回っているし、人を訪ねるには遅い時間だ。
「あの、千雪様、お迎えの方がいらっしゃいましたが」
家政婦の新川がやってきてそう告げると、途端、千雪は眉をひそめる。
「お迎えってどなた?」
「綾小路様です。先ほども一度いらっしゃったんですが、まだおいでにならなかったので」
小夜子が尋ねるのに、新川は答えた。
「なぁんだ、泊まっていくんじゃなかったの?」
「あ、いや、その、ちょっと小説のことで聞きたいことがあって、ずっと学会で忙しいみたいで、今夜じゃないと時間が取れないとかで」
小夜子に問われた千雪は、内心、あのやろう、厚顔無恥、常識外れにも程がある、と怒り心頭なのを必死で抑えて、適当な言い訳をしながら仕方なく立ち上がる。
いうか、常識なんか通じないんやからな!
こんなとこで、ああだこうだ、言い争いをしてみせるわけにはいかんやろ。
「ああ、ほな、お邪魔しました。また、寄らせてもらいますわ。小夜ねぇ、ケーキご馳走さん」
玄関に行ってみると、えらそうに腕組みをした京助が立っていた。
「千雪、よく考えなさい。うちはいつでもかまわないからな」
「そうよ、離れはいつでも入れるようにしてあるから」
みんなして玄関まで千雪を送ってきてくれて、口々にそう言った。
「ありがとうございます。ほんまにお世話になるかも知れんし、その時はよろしくお願いします」
聞こえよがしに千雪はそう言ってみたが、京助の方はしれっとした顔で、「綾小路といいます。夜分に押しかけて申し訳ありません」などと、そのあたりはいかにも育ちのよい礼儀正しい好青年を演じるくらいは朝飯前だ。
「千雪の伯父の原です。いやいや、こちらこそ、わざわざ迎えにきていただいて、何かと千雪がお世話になっているようで、これからもよろしくお願いします」
早速、伯父を陥落させている。
こういう『手腕』を発揮して、女とかも陥落させると。
タラシより詐欺師やな。
「ほな、お休みなさい」
一緒に玄関を出た千雪は、一応、京助の車に乗りこんだ。
「今さっき、聞いたように、伯父の家に引っ越そうか思うてる」
とっととケリをつけてしまわないと、いつまでもグジグジダラダラ頭の中で考え込んでしまうだけだと、車が走り出したところで、千雪は切り出した。
「それで?」
「今までみたいなつき合いは、しまいや」
すると京助は、フン、と鼻で笑う。
「回りくどいことを言うなよ。要はお前、あのくだらねぇ雑誌見て、彼女を妬いたんだろ?」
その傲慢な台詞に千雪はカチンときた。
「お前ってほんま、傲岸不遜を絵に描いたようなやつやな」
「悪かったな。いいか、あいつは昔留学中にちょっとつき合ってただけで、わざわざ俺のうちへ連絡をくれたから旧交を温めたってとこだ。別にだからこれからどうだなんてんじゃねぇ!」
京助は頭ごなしに声を荒げる。
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