花のふる日は51

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 チャイムの音が聞こえた気がしたが、千雪はまだ夢の中を彷徨っていた。
 再びチャイムが鳴った。
 はっと現実に引き戻され、千雪はソファから跳ね起きた。
「菊ちゃん? どないしたん?」
 てっきり菊子がまた戻ってきたものと思い込んで玄関を開けた千雪は、そこに立つ男に不意を突かれた。
「京助…」
 外はいつの間にか小雨が降っていた。
「よう、まだ、俺の名前は忘れていなかったか? ちょっと京都観光でもしたくなってな」
 京助は人を食ったような笑みを浮かべて言った。
「……仕事は? こんなとこくる暇、あるんか」
 しばらく眉をひそめたまま、口をつぐんでいた千雪だが、ようやくそれだけ言った。
「なーに、寝ずの活躍を余儀なくされた例のクソ事件がバタバタと片付いてくれたお陰で、教授からねぎらいのお言葉としばしの休暇をいただいたんでね」
 どおりで疲れたような顔をしている、と千雪は京助をあらためて見る。
「そらまた、大変やったな。ほな、ブライトンホテルとか、ちょっと足のばして、丹後の温泉、紫陽草庵なんか、リフレッシュするのにええんちゃう?」
「フン、なるほどそいつはいいかもな。その前に、茶の一杯ももらいたいもんだな。珍しいことに風邪を引いたらしい」
 千雪ははっとする。
 顔、赤っぽく見えるのは熱のせいなんか?
 しかも、京助のコートが濡れているのに気づいてひとつ息を吐く。
「しゃあない、あがったら? 風邪引いてるのに雨にぬれるやなんて、不養生もええとこや。ただし、そう美味いお茶はないで。とっととホテルにでも行った方がええ」
 京助はフンと鼻で笑い、靴を脱いで何年ぶりかの小林家の三和土で靴を脱いだ。

 


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