花を追い14

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 藤田はいつも仕事に口出しをするわけではないが、何か思いつくと腹心の部下を呼び寄せて、企画を通してしまうらしい。
 それが往々にして当たってしまうので、広報部でもたまに藤田がねじ込んでくる仕事をないがしろにもできないようだ。
 だけどな〜
 明日は帰ってくると思っていた工藤の帰国が二、三日も伸びるなんて。
 つまんねーの。
「あら、どうしたの? つまんないこと、あったの?」
 心の声だと思っていたのが、いつの間にか口にしていたらしい。
 画面から顔を上げた鈴木さんに笑いながら尋ねられて、「いやいや、大したことじゃ……」と良太は言葉を濁す。
 いずれにしても明日のプロモーションイベントは心して臨まないといけない。
 何せ、NBCの創設六十周年記念番組で、そのために超売れっ子脚本家の坂口陽介をくどき、大物俳優宇都宮俊治を起用してメインスポンサーはフジタ自動車というのだからテレビ局側の力の入れようも大きいはずなのだが。
 蓋を開けてみたら、キャスティングはほとんど俺の口にした面々ってどうよ?
 良太は眉を顰める。
 もっともそれは坂口と宇都宮と工藤と良太の間でのオフレコなわけだが、にしても、幾度か行われた会議ではNBCのメインプロデューサーはまるで司会進行係、たまに若いサブプロデューサーが意見を言うのだが、坂口の、ああ、それいいやね、で終わり。
 さしたる問題もなくプロモーションイベントの日がきてしまった。
 すったもんだしたのは、俺だけかよっ!!!
 ロケ地も良太があちこち探しまくって制作会社や地方局を通じてリストアップして交渉し企画書に羅列したものを、局側のサブプロデューサーが承認して終わり。
 ちぇ、そんなもんかよっ! キャスティングだって、こっちは必至で明日に間に合わせたってのによ!
 例の日下部の後釜は、ほぼすんなりと、本谷に決まった。
 最初事務所に打診した時は、大変ありがたいお話なんですが、という対応で断られるかと思った良太だが、五分後にかけなおす、というので待っていたところ、今度は手のひらを返したように、ぜひお願いします、というものだった。
 おそらく何かスケジュールが入っていたのかもしれないが、坂口脚本、主演が宇都宮という記念番組の方を優先させたのだろう。
 その記念番組とやらだからか、放送時期を考えるとかなり早い出演者の発表を兼ねたプロモーションイベントなのだ。
 良太は心の中でぶつくさ文句をたれつつも、プロモーションイベントを滞りなく済ませるべく俳優陣の出席確認のために電話をとろうとしたその時、電話が鳴った。
「はい、青山…、あ、谷川さん、お疲れ様です!」
「おう、お疲れ……」
 電話口の谷川はなんとなく覇気がなかった。
「ほんとすまねぇが、夕方からの奈々のオーディション、誰か俺の代わりにいってもらえねぇかな」
「え?」
 ここのところ奈々は結構多忙だった。
 ドラマの撮影が終わるとすぐ、バラエティ番組、FM、映画のロケとほとんど休みなく東北から京都、東京と飛び回っていた。
 当然のことながら、その奈々を送り迎えし、疲れを残さないように奈々をいたわりながら行動を共にしていたのはマネージャーの谷川だ。

 


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