花を追い26

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 もし、父親が知人の保証人などにならなければ大きな負債を抱えることにもならなかったし、引いてはその負債のために良太が少しでも実入りのいい仕事をと考えて、青山プロダクションの面接などに出向かなかったかもしれない。
 ごく平凡な自分と出自から性格から仕事から全く違う世界の人間ともいえる工藤と人生行程が交差することなどなかったかもしれない。
 だが今良太はここにいるし、佐々木がつきあっているのは沢村だった。
 しかしそういえば、沢村は不思議なことに佐々木の母親にとってはどういう存在としてかは別として、ちょくちょく佐々木家に出入りして、それなりにその存在を認められているようである。
 やがて香しいコーヒーとわらび餅のデザートが運ばれた。
「コーヒーまで付くんだ」
 わらび餅も、一口大というのがまたいい。
 仕事も忘れて美味しいものを堪能し、顔も緩みっぱなしの良太のポケットで携帯の振動音がした。
 取り出した携帯には沢村の名前が出ている。
「はい」
 ちょっと佐々木に視線を走らせてから携帯に出ると、「どうだった? 打ち合わせ」と聞いてきた。
「いやまあつつがなく……だからきっちり、お前に成り代わって要望は伝えたし」
 すると佐々木が少し顔を上げた。
「………佐々木さん、どうだった? 機嫌悪くなかったか?」
「……今、メシ食ってたんだよ、打ち合わせの後みんなで」
「え、佐々木さん、そこにいるのか?」
 案の定かわれという。
「佐々木さん、沢村からです」
 携帯を差し出すと、佐々木は一瞬躊躇いをみせたものの受け取った。
「はい」
「佐々木さん? よかった! 俺この後飯食ったら移動なんだ、今夜はまた電話しようと思ってた!」
 能天気な沢村の嬉しそうな声が佐々木の耳に届く。
 手放しで喜んでいる沢村と話せることが佐々木も嬉しくないわけではない。
 しかし周りに人がいるだろうところで、そんな大きな声で話していいのかと、佐々木は気を回さざるを得ない。
「今夜から広島やなかったか。電話より疲れ取ることを考えた方がええ」
「俺にとっては佐々木さんの声聞ければ疲れなんか吹っ飛ぶんだよ。なあ、明後日土曜だし、こっちに来ないか? 温泉とか一緒に……」
 それ以上聞いていられずに、佐々木は思わず電話を切ってしまった。
 まったく、あいつときた日には! 少しは周りのことを考えろ!
「あ、切ってしもたけど、よかったか?」
 勢い切ってしまったのが良太の携帯だということを佐々木は思い出した。
「いえいえ、俺は別に、大丈夫です」
 良太は何となく内容を察して、かぶりを振った。
「しかし、スポーツ選手も大変だよな。一年の大半移動移動で過ごすんだもんな」
 藤堂はのんびりとコーヒーを口にする。
「まあ、でも国内リーグはまだいい方じゃないですか? MLBとか移動距離半端ないし、その傘下の3Aとか待遇も過酷だから大変だって、ほら、向こうに行った島岡選手とかにインタビューした時話してました」
 良太はそれでも好きな野球だから苦にならないと笑っていた島岡選手をちょっと羨ましく思ったことを思い出した。

 


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