「工藤が忙しいのはわかるけど、それで俺にほぼ丸投げって何だよっ!」
どうやら大物脚本家と言われ、気難しいので知られる坂口陽介に良太は気に入られたらしく、何かというと良太の携帯に電話をしてくる。
工藤への繋ぎならいいのだが、直接良太にあれやれこれやれと言いたいことだけ言って切ってしまう。
しかもだ、そのことで工藤に文句を言うと、プロデューサーとして良太の名前入れておこうなどと言い出すしまつで、あっちでもこっちでも振り回されている良太としては、肉体的にもだが精神的に疲れるわけだ。
その工藤は今夜、CF撮影のためにニュージーランドに発つので、夕方ドラマ撮影が終わる頃スタジオから羽田まで良太が送っていくことになっている。
NBCドラマのスポンサーCMであるこの仕事は英報堂が工藤を名指ししてきたもので、主演の宇都宮を起用したSUV車のCMだ。
スポンサーはフジタ自動車とあって、社長に気に入られている工藤が呼ばれたらしい。
弁当などが出ていても食事をちゃんととらないことが多い人なので、工藤に電話をして食事をとっていないようならサンドイッチでも買っていくつもりでいる。
ここにきて工藤はまた忙しさマックスなのに、とちょっと引っ掛かりがあるのだが、やがて国立府中インターチェンジの出口が見えてきて、高速を降りると八王子へと日野バイパスを走る。
案外あっという間のドライブで、大学の門をくぐると良太はこもごもの文句や不満を取りあえず棚に上げて、駐車場に車を停めた。
近くにある内野が好きだという和食の店には個室もあるということで良太はあらかじめ予約を入れておいた。
内野は同じ世界の秘境を闊歩する男でも戦場を潜り抜けてきたカメラマンの有吉のような頑健な大男とは違い、ひょろっとタイプの学者肌で、言葉遣いも優しかったし、何より気遣いがあった。
「いやあ、わざわざ予約していただいてすみません」
年齢は工藤より少し上あたり、動物行動学を選ぶだけあって、犬猫鳥何でも好きで、自宅でも何匹かいるという内野は、気になる動物の話を始めると止まらない。
「ハハハ、好きで昔から何でも拾ってくるのはいいんだけど、結局世話をするのは家にいない僕より母だったりして、しょっちゅう文句言われてますよ」
動物に夢中になると周りを忘れるせいで何度も振られ、独身のため、近所では変人扱いなのだそうだ。
「でも先生、学生にはすごく慕われてますよね」
彼のゼミはいつも定員オーバーになるほどで、講義も真面目に聞いている学生が多いのをたまたま覗いた良太は見ていた。
「ありがたいよねぇ」
今回一カ月の長期行程のため、講義にも支障をきたすことになると心配したのだが、どうやら毎日とはいかないがテレワークで講義をするという。
学生にとってはむしろ現地からのリアルな講義とあれば願ってもないところだろう。
この話には案の定有吉がそんな悠長なと文句を入れてきたが、以前も北極圏からやりましたよ、という内野ののほほんとした回答に有吉が苦虫を噛んだような顔をしていたので、良太はちょっと留飲を下げたものだ。
行程やフライトの打ち合わせを終えて内野と別れると、良太は八王子を後にした。
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