「それってあまり関係ないよな、むしろそーゆー要素がもともとあったっつうか」
「何がそーゆー要素だ?」
ちょうど良太がバスローブで腕組みをしてぶつくさ言っている時にドアが開いた。
「え、いえーー、こっちの話で………あ、あれ……」
ふと窓の方に顔を向けた良太は、カーテンの隙間から垣間見えたものに気づいて、窓に寄って行った。
「うわ、これすご、工藤さん!」
「何がどうしたんだ?」
良太は思い切ってカーテンを開けた。
幽玄というにふさわしい情景がそこにはあった。
桜の大木が夜を背景に庭園灯に照らし出され、いくつかの花びらが音もなく舞い落ちる。
しばらく魅入られたように窓に張り付いていた良太の後ろに、いつの間にか工藤が立っていた。
程なく、ひとふきの風に一斉に花びらが躍った。
言葉が出てこない。
息をのんで立ちすくんでいた良太は、工藤のキスに絡めとられ、すぐに深く口腔を嬲られる。
工藤は窓側のベッドに良太を軽く倒すと既にはだけかけたバスローブの中へと指を這わせた。
身体が勝手に工藤を悦んでいるのだと応えてしまう。
でなくても工藤と会えて嬉しい良太の心のうちなどわかっているに違いない。
このぬくもりが欲しかったのだ。
工藤のぬくもりでなくてはダメなのだ。
最初から深く繋がった工藤に、熱を持った吐息が良太の唇から漏れる。
最初から深く入り込んで、確実に弱いところを刺激してくる。
脳髄までも甘い痺れが良太を支配する。
高見へと追い上げられ、堕とされる。
見入っていたせいだろうか、乱舞する花びらの中に埋もれてしまうような錯覚を覚え、やがて良太は意識を手放した。
リリリリリと何度もうるさい音が部屋中に響いた。
一度目は無視したが、二度目は仕方なく良太が受話器を取った。
枕もとのテーブルに置いてある携帯は、八時半を示していた。
「あ……おはようございます……」
杉田からで朝食が覚めないうちに起きて来いという内線電話だった。
「杉田さんには午後からにしてもらうんだったな」
工藤も珍しくまだ起き上がろうとしない。
良太は仕方なく起き上がると、覚めやらぬ頭のままバスルームへと向かった。
それでも、階下に降りて、オムレツにサラダにパンケーキというホテル並みの朝食の前に、良太の頭は覚醒した。
良太がきれいに平らげてコーヒーを飲みながら、杉田さんが好きなワイドショーを一緒に見ていると、ようやく工藤が起きてきた。
「お疲れですかね、ぼっちゃん」
途端、良太は吹き出しそうになる。
杉田を前に工藤が嫌がるのはこの呼び方だ。
初めてそれを聞いたとき、顔が笑いで引きつりそうだった。
「だから、その呼び方やめてくれ、杉田さん」
工藤はどうしても笑いの表情を隠せない良太をジロリと睨みつけてから、テーブルに着いた。
「しょうがないですよ、だってかれこれ四十年、そう呼んでるんですから」
「だから、四十過ぎた男に……」
工藤は言いかけて辞めた。
「また、パンケーキ残して」
オムレツとサラダだけ食べ、コーヒーを前に新聞を読んでいる工藤に、杉田がまた文句を言う。
「朝から甘ったるいものはダメなんです」
「昔はちゃんとお食べになったじゃないですか」
杉田は片付けを始めながら言い返した。
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