残月49

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 ドリームエージェンシーに不倫疑惑の記事をでっちあげられてネットに載せられたそのリベンジをさせようなどと思ったわけではないのだが、たまたま名前が挙がった三木原澪は若いが演劇畑の出身で、か細い見た目に反して声も張りがあり、表情も豊かだった。
 今回急なオファーにも拘わらず即受けてくれたのは、実は不倫疑惑が尾を引いていて最近まで仕事がまばらだったこともあったようだ。
 事務所を訪れて事情を話すと一も二もなく、よろしくお願いします、と頭を下げられた。
 事務所側には三木原にしっかりと着実に仕事をさせようという姿勢が窺えて、良太はこれはいけると確信した。
 ダメモトで午後から、と言ってみたところ、何もスケジュールはないのでいつでも行きますという返事をもらったため、マネージャーとともにそのまま京都に向かったというわけだ。
「何で最初から彼女にしなかったってくらい、いいね」
 日比野は撮り直しを始めてから三木原をべた褒めだった。
「こっちの意図をすぐくみ取ってくれるし、何より文句を言わない」
 周りは笑った。
「いやあ、こっちがおかしきゃ、文句の一つも言ってもらって全然かまわないんだけどね」
 日比野の機嫌がいい。
 三木原のこの役はさほど科白もないのだが、ちょこちょこと出番がある。
 貴船神社での撮影が終わってから、嵯峨野に戻って撮り直しシーンがいくつか残っているのだが、撮影は順調に進み、この分だと何とか元のスケジュールに追いつくかも知れない。
「三木原さん、いい感じだね。さすが良太ちゃん」
 休憩に入った途端志村までそんなことを言う。
 志村は腹に据えかねことがあってもよほどでなければ文句を言うことはないが、こんなふうに表現することもあまりない。
 俳優陣もクルーの間でも二村のいる時は尖った雰囲気が漂っていた気がするが、今はどの顔も穏やかだ。
「澪、よくやってる」
 檜山が良太の隣に来て言った。
「うん。でも………」
「また何か考え込んでる?」
「結局、二村をいい方向へ向かわせることができなかった」
 スポーツドリンクをゴクゴク飲んでから檜山は良太を見た。
「誰もかれもがいいやつとは限らない。良太がみんなを何とか出来るわけでもない」
「それはわかってるんだけど」
「何だよ、夕べはクールに決めてたのに」
 言われて良太は肩を落とす。
「うう、情けねぇ」
「ボスの邪魔をする奴は許せないんだろ?」
 はっと良太は檜山を振り返る。
 こいつ、俺の胸の内を見透かしてる!
 檜山は笑っている。
 二村と下山は事務所の人間が二人を迎えに来て、撮影隊が出払っている間にホテルを出て行ったらしい。
 下手過ぎて降ろされたくらいならまだしも、犯罪だぞ、と沢村が忠告した通り、後味の悪い結末になった。
「あの手のたちの悪さは、罰せられないと本人が自覚しない」
 檜山が言った。
「業界を締め出されたくらいじゃだめってことか」
「頭悪そうだし」
「まあ、悪知恵ははたらくみたいだけどな」
「良太はもう二村のことは忘れることだ。関わり合ってる暇、ないんだろ?」
「そうだな」
 何しろ、たったさっき関西タイガースと東京ジャイアンツのCSファイナルが始まったばかりだった。
 パワスポの取材陣も関西タイガースのホームグラウンドに駆け付けている。

 


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