残月48

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 翌日からの撮影はぐんとタイトになった。
 午後から二村の代役として、未来企画の三木原澪をそのマネージャー芳田とともに良太が撮影現場に連れ帰ったので、セリフも少ないシーンから早速撮り直しの撮影が始まった。
 始発の新幹線で京都駅を発った良太は、朝イチで美聖堂本社を訪れ、昨夜のうちにアポイントを取っていた斎藤と会った。
 二村が演技以前に、人として一線を越えた行為が目に余った、と良太は昨夜あらかじめ斎藤に伝えていた。
「何があったのか、オブラートに包む必要はないから具体的に話してもらえるかね?」
 斎藤は真実を知りたがった。
 そこで良太はこの撮影中に、二度にわたって牧に罪を着せようとしたことを率直に話した。
 一度目は牧が足を出して転ばせたと言いがかりをつけたこと。
 二度目はエスカレートして、下山に小細工をさせ、部屋をわざと荒らして牧に窃盗の罪を着せようとしたこと。
 良太は簡潔に要点をまとめて説明した。
 さらに演技では日比野の指示をまともに聞かないこともあり、二村のせいで撮影に遅れが出たり、他の俳優のスケジュールにも支障をきたしたことなどを付け加えた。
「ドリームエージェンシーには顧問弁護士が出向いて、先方の意向によって和解ということになりましたが、表ざたになれば、虚偽告訴、業務妨害、名誉棄損などでの訴訟となります。いずれにせよ、これ以上撮影に支障をきたすことは回避しなくてはなりません。それに」
 良太は一端口を噤む。
「それに、まだあるのかね? かまわないから話してくれないか?」
「実はこれが初めてではないようです。調べてみたところ、スタッフに怪我をさせて障害事件を起こしたり、事務所自体も絡んで偽の情報をネットに流して仕事を奪った事実もあるようです」
 これを聞くとさすがに斎藤も険しい顔をした。
「二村さんに関しては、今後業界に留まることは難しいと思われます」
 きっぱり言い切った良太を斎藤はまっすぐに見据えた。「わかりました。二村さんの件はこれきりとしましょう」
 そういうと、斎藤はすぐに相好を崩した。
「お恥ずかしいが、正直こんなことだとは思わなかったので、広瀬さんにも撮影陣にもご迷惑をかけましたね。二村さんの祖父とはゴルフ仲間でね、つい安請け合いをしてしまったが、業界はそんなに甘いものではなかったと伝えておきましょう」
「監督と何とか続けられるよう苦慮はしたのですが、力不足で、思わぬお手を煩わせることになり、申し訳ございません」
 良太は頭を下げた。
「いやいや、こちらこそ大事なプロジェクトの進行中に大変申し訳なかった。この埋め合わせはまた工藤くんと一緒の時にでも。あ、広瀬さんは、酒は苦手でしたかな?」
「え、いえ、普通に嗜むくらいは」
 うわ、ちゃんと覚えられてるし!
 以前、工藤に連れられて斎藤と会わせられたのだが、周りが酒豪ばかりで、早々と良太はつぶれてしまった。
 山内ひとみが斎藤ジイとか言っていたけど、耄碌したような顔をして、大企業のトップともなると侮れないと良太は再確認する。
「今回は大切に創り上げてきたプロジェクトの映画化で、撮影陣も俳優陣も力が入っていることでしょう。美聖堂としてもバックアップは惜しみません。工藤くんにもよろしくお伝えください」
 良太も斎藤のそんな言葉を聞くまでは緊張の糸を緩めることができなかったが、概ね理解してくれたようだと胸を撫で下ろした。
 小一時間ほどで美聖堂を後にした良太は、二村の代役としてピックアップしていた三名に打診するため、三社に連絡を入れたが、急なスケジュールと代役ということに難色を示されて、最終的に了承を得られたのは未来企画の三木原澪のみだった。

 


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